第70話 次男の病気

いつもなら手術が終わる時間だ。


手術の日はさすがにカツオも有給休暇を取るので一緒に待合室で待っているのだが、手術が終わった連絡が入る医療用携帯電話に鳴る様子がない。


手術のとき、長男は実家に預けている。

2人で遅いなぁ遅いなぁと思いながら待つ。


3時間、4時間、5時間、、、。


さすがにカツオもいても立ってもいられなくなりソワソワとずっと歩き回っている。


手術室へ送り出したのは11時半頃。

そうすると14時頃に拘束帯でベッドに括り付けられた状態で戻ってくるのだが、なぜ今日は戻ってこないのか。

看護師さんたちが説明に来てくれるわけでもなくひたすらに待ち続ける。


不安はずっと最高潮をキープしている。

気が狂いそうになる。

嗚咽しそうになる。

どの仮面を被ればいいのかわからない。


6時間、7時間、8時間、、、。


永遠とはこのことをいうのではないだろうか。



送り出してから9時間が経った頃、電話が鳴り、

案内されたカンファレンスルームに入る。



「予定より大変お待たせしご心配をおかけしました。申し訳ないです。手術は無事に終わりましたのでご安心ください。今回カテーテルによるバルーン拡張手術の予定でしたが、カテーテル自体がもう通らないほどの血管の細さになっており、カテーテルを通すと逆に血管を損傷してしまう可能性があったこと、そして状態がかなり深刻でしたので緊急にて開胸手術をいたしました。狭窄している部分を切り取ってなるべく太い血管と繋ぎ合わせましたが、その際に出血量が多く一時心肺停止となり電気ショックにて対応いたしました。輸血にて安定いたしましたので先程NICUに移動いたしました」



どのように開胸手術を行ったか、手術をしてどうなったか、予後がどうかの説明を受けたのち

NICUへ向かう。



エレベーターを待つ間、膝から崩れ落ちる。



厳重に消毒などを済ませてNICUへ入った。

そこには何種類もの点滴をし、閉胸された縫い目の間から薄い血液を排出する管(ドレーン)が出ている次男が、全身麻酔にて眠っている姿だった。ちゃんと、生きている。

動かないように3日ほどは全身麻酔を常に点滴で入れて寝ていなくてはいけないらしい。



この時の気持ちは何と表せばいいのだろう。

言い表す必要はないかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る