第63話 神奈川県民になる
先ずやらねばならぬのは荷解き。
これがめんどくさい事めんどくさい事。
とりあえず子供たちはラグマットの上で勝手に
ゴロゴロしておいてもらう。
私は接骨院で叩き込まれた掃除と片付け方が
根付いてしまっているので収納などにこだわりがある。そこに足して子供たちが遊びやすい様に工夫を施した。
次にやるべきは役所関係。
あとは使い勝手の良さそうな銀行口座も作る。
他はネットで住所変更と郵便の転送サービスもしておいた。
何日かかけてやっとひと息ついた。
家の周りに公園と呼べるものはなかったが、
その代わりに、大人の足で1分くらいのところにスーパーがあり2分くらいの所に小学校があり
3分くらいのところに幼稚園があった。
長男が入園したら便利だ。
公園がない代わりに私は誰も来なさそうな草がボーボー生えてバッタや蝶が飛んでいる空き地的な所を発見した。ここなら次男が泣いても人目が気にならないし、子供の声もしないな。
その頃の私はスーパーに買い物に行ってレジに並んでいるだけで汗がダラダラと出てきて息苦しくなるようになっていた。真冬でもだ。
人と対面することが困難になっていた。
でも我慢をしてしまった。大丈夫と自分に言い聞かせて仮面を被った。そのうち良くなると。
カツオはバスの運転手になった。
先輩に同乗してもらい実際の路線を走る。
もちろんまだお客さんは乗せないので、電光掲示板を研修中だかなんだかの表示にさせるらしい。神奈川県の路線バスは道が狭すぎる。
え?ここバス通りなの?っていうくらいの道を
曲がるのだ。どうやらけっこうな技術が必要らしい。私は無免許なのでわからないが。
バスの運転手になるので私はカツオが寝不足になって事故を起こさないか懸念したが、コイツは寝たら絶対に起きない。次男が大泣きしようが長男から寝相キックを食らおうが起きん。
安心したのと同時に、腹が立った。でも
カツオが1人で勝手に死ぬのは構わないが、バスで人様の命を奪ってしまうわけにはいかないと思い、私は実家同様に気を遣ってしまった。
始発を運転するには朝の4時半頃に起きたり家を出ないといけない。最終バスまで運転する時は0時近くに帰ってくる。残業100時間は当たり前の会社のようだ。私もヘトヘトなのだが何故か
カツオには私は元気に見えるらしい。恐らく、育児と家事しかしてないから楽だと思われているようだ。それが原因で殺意が芽生える奥様は世の中に星の数ほどいるに違いない。
……お前になんか頼んねーよ!バーカ!
と、思うくらい心は荒んでいる。
もうすぐ造影剤の検査がある。
行き方を調べたらバスを乗り継いで片道1時間半かかるようだ。これはしんどいぞ。
通院の日は病院で1日が終わるな。
きっと長男も疲れるだろう。
前に次男を抱っこ、背中には大きなリュック、
ベビーカーには長男が乗っている。
……雨じゃなくて良かった、、、。
まずは乗り換え駅まで向かう。
私の額や背中は既に汗でびちゃびちゃだ。
泣いている次男を抱きながら公共交通機関を使う言葉にできないプレッシャー。
誰も気にしていないかもしれないのに、誰も見ていないのに、自意識過剰なほどに汗が出る。
……早く降りたい、、、。
30分ほど乗って次に乗るバス停へ向かう。
少し気持ちを落ち着かせつつバスが来るまで待つ。また40分ほどバスに乗る。やはり片道で1時間半ほどかかる。
病院のバスロータリーで降り、受付をする。
入院なので前と少し手続きが異なった。
ここでは初めての入院なので冊子を渡され丁寧に説明をしてくれる。曜日によっては兄弟児預かりのボランティアもあるようだ。助かる。
循環器内科の担当医からも検査について詳しく説明がされた。確かに安心して任せられる。
当たり前だが、入院患者は子供しかいない。
大人は看護師さんと面会に来ている親御さん。
ここのプレイルームで元気に遊んでいる子たちも見た目とは裏腹に入院が必要なんだ、と思うと胸が痛くなったのと頑張ろうね!と祈った。
そしてそれはうちの次男にも言えることだ。
私は初めて次男と離れて夜を過ごす。
いつもだったら心にも無いことを思ってしまう日が多いのに、いざとなると寂しくて不安で心配でたまらない。面会時間は10時から22時。
長男がいるので今日は最後の時間まで一緒にいてあげられない。明日もここに来なくてはいけないので18時頃に名残惜しくも看護師さんにお願いしますと頭を下げて長男と家に向かう。
カツオが帰ってきた。長男がちょうど寝る頃に帰ってきたので変にテンションが上がってなかなか寝ようとしてくれなくなってしまった。
仕方ないので長男を膝に座らせながら、病院までバスで行くのが大変だったこと、病院の冊子を見せながら今日のことを話す。
……今日は看護師さんにお願いして、ゆっくり眠りにつこう。
そう思うのに夜中に何度も起きてしまう。
もう眠れないのが当たり前の体になっている。
スヤスヤ眠る長男の顔をずーっと眺める。
いつもは立っているので上からしかほとんど夜の寝顔を見たことがない。いつもうつ伏せで寝るのでほっぺが潰れて口がおちょぼになる。
写真をパシャリと撮る。
長男のアルバムと次男のアルバム。どうしても長男の方が写真が多くなってしまう。次男の写真は泣いているか誰かに抱っこされているものばかりだ。写真を撮る本人が抱っこしているので撮りたくても撮れない。
……眠れなくても、ゆっくりしよう。
朝になり、また病院に行く準備をする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます