第59話 息子たちの育児 4
「黄疸が酷くなっている気がするんです」
検診の際に先生へ相談をする。
平均であれば黄疸はなくなっている時期だ。
「紹介状を書くので市立病院で詳しく検査をしてもらいましょう」と、言われ会計をする。
次の日、長男を連れてバスで病院へ向かう。
もちろん次男はずっと泣いている。
公共機関で子供が大泣きすると仕方のないことなのに申し訳なくなるのは何でだろうか。
「座りますか?」と声をかけてくれる方もいらっしゃるのだが、座る方がヤバいのだ。
「座るともっと泣いてしまうので...お気遣いありがとうございます」と丁重にお断りする。
長男はベビーカーに乗っているので座席に着いている固定ベルトで動かないようにする。
抱っこ紐には次男、ベビーカーを抱えて持ち上げバスを下りようとした時、「おろしますよ!」と同じく病院で下りる男性が手伝ってくれた。
「ありがとうございます!助かります!」
前面で次男を抱っこしているので何をするにも不便なのだ。それに、黄疸が引かないどころか
まだ首の座りもしっくりこない。
……大丈夫かな、、、。
受付で紹介状を出し問診票を書く。
結果まで時間がかかるので先に採血を行う。
腕から採血しようにも血管が出なさすぎて
両腕を何回もブスブスした結果どうにもならず
「首の血管から採るのでお母さんは待合室で待っていてください」と外に出される。
その直後、泣き声がさらに大きくなった。
「すみません、腕からとれなくて首になってしまって。無事に採血はできましたので」
「ありがとうございました」
「もうしばらく止血で抑えておいてください」
「わかりました」
「結果が出るまでお部屋でお待ちください」
そう言って個室へ案内された。
少しして小児科医の先生が入ってくる。
「こんにちは。○○と申します。血液検査中なのでお待ちください。あと、もしお母様が嫌でなければ勉強のため研修医に心音など聞かせたいのですが大丈夫ですか?」と聞いてきた。
「あ、はい。どうぞ」
「失礼します」とゾロゾロと入ってくる。
……思ってたより多いな。5人もおるやんけ。
代わる代わる次男の心音を聞く。
泣いてても聴音機で心音って聞こえるのか?と
疑問に思っていたら、1人の男の子研修医が
「○○先生、少し雑音がするような気がします」と言った。どれどれ?という感じで先生も最後に心音を確認する。
……私の心音も聞いて欲しいくらいだ、、、。
「確かに、雑音が混じっていますね。心電図と
エコーでしっかり見てみましょう」
ガラガラとエコーの機械が運ばれてくる。
次男は懲りずに泣いている。
心電図はひっちゃかめっちゃかだ。
温かくなっているジェルを胸に塗り調べる。
心臓から出る血液と戻る血液は色が分かれていて、赤色と青色で画面に映る。
「血管の数箇所に狭窄があるようですね」
「細いってことですか?」
「そうです。この場合だと染色体異常の合併症で狭窄が起きている可能性があるので、染色体の検査もしましょう」
……染色体異常、、、。
産院で寝ていたような透明の縁の小さなベッドに横になる次男。相変わらず泣いている。
途中でミルクをあげたけどほぼ飲まなかった。
長男は買っておいたベビーフードを綺麗に平らげている。今はアンパンマンの味のない白いおせんべいをはむはむしている。
次男を抱き上げる。
もう何時間、病院にいるのだろう。
先生が戻ってきた。
「お母様。検査結果が出ました。やはり染色体に異常がみられました。第7染色体が欠失しているので【ウィリアムズ症候群】という先天性の染色体異常による指定難病です」
……ウィリアムズ症候群、、、なにそれ。
「でもよく聞いてください。この病気はお母様のせいでもお父様せいでもないんです。受精した段階でそうなってしまったんです。なのでどうか自分を責めないでください。もう少し他の検査も必要なので突然で申し訳ないですが本日から検査入院となります。当院は預かり病棟でないため、お母様とご一緒に泊まっていただくことになります。あと、お父様にもご説明しますが
本日お越しになれますか?」
……突然、そんなこと言われても、、、。
「夫に、連絡してみます……」
私は泣きながらカツオに電話をした。
私がカツオの前で泣くのは初めてのことで、
きっとそれにも動転したと思う。
仕事を切り上げて病院に来てくれた。
先生が改めて説明をする。
「うそだろ……」
「では、一旦失礼します。どうか気をしっかり」
……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん...
しばらく2人で泣くことしか出来なかった。
「パパとママと、そっちも連絡しないとね...」
「ん、、、」
仕事終わりで私の両親が来る。
カツオのお母さんは介護職をしており、夜勤のため行きたいけど来れないと連絡があった。
その場の4人が何からどれを受け入れたらいいのかわからず立ち尽くすしかない。
長男はずっといい子に待っていてくれた。
次男が泣き続けるのも哺乳が下手なのも聴覚過敏なのも発育が遅いのも、ほとんど病気が原因だったんだ。
健康に産んであげられなくてごめんね、、、。
次の日、先生に引越しが近いことを話した。
「では引越しされる前に神奈川県立こども医療センターへの紹介状を書きますね。このこども医療センターの先生はすごい人ですから安心して通えると思いますよ」
実家に戻ってきた。
「病気だったからあんなに泣いてたんだね。そう思うと少し仕方ないと思えるというかなんと言うか...」と母が言う。
母の言いたいことは分からなくもない。
でも仕方ないとは簡単に心が割り切れない。
だって、死んでしまうかもしれないんだから...
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