第58話 息子の育児 3

靴下を履こうとして後ろに転げる。

腰が痛いし、脚がつる。

お腹が邪魔して上手く眠れない。

デジャブだ。

やっとつかまり立ちをした長男。

危ない時に、サッと動きたいのに動けない。

私は分娩よりも妊婦期間が嫌いなんだな。



次男の出産予定日は12月半ば過ぎ。

それから2か月間は実家にお世話になり、

その後の1ヶ月で荷造りやらをして、

3月には神奈川県に引っ越す予定。

ハードモードだ。



子供を優先して離婚しない家庭は多いと思う。

何かを諦めたり妥協したり折り合いをつけ。

うちの両親も兄と私、孫を理由に一緒にいるようなもの。私は親になって親の気持ちが少しだけわかった気がする。



12月2日

長男が満1歳になった!

誕生日ケーキを買い、皆が歌うハッピーバースデーの歌をキョトンと聞きながら訳も分からずロウソクの火を消すのを促されるもほぼ私が吹き消した。

私もこうやって祝われてきたのだろうか。



12月出産予定日

次男は生まれてくる気配がない。

またかーーーい!!!

私はもう同じ過ちは犯さない。

産まれる気配がないからといって、無闇に散歩に出ることがどれほど危険か学習したのだ。

そのうち嫌でも産まれるっしょ!



12月26日早朝

軽い陣痛がきた。

長男の陣痛に比べたらめちゃくちゃ余裕!

痛いことは痛いが、喋れるし動ける。

陣痛の間隔が縮まってきたので産院に連絡をいれ、カツオがギリギリ出勤前でまだ家に居たので車で産院へ向かう。

……くそー、立ち会い分娩になってしまう。

重めの生理痛ってこんな感じなのかな?と思うくらいの陣痛だったので余裕をぶっこいて陣痛室で着替え、助産師さんがどれくらい子宮口が開いているか確認する。

「なんでもっと早く連絡しなかったの!もう子宮口ほとんど開いてるじゃない!早く!すぐ分娩台に上がって!」

あわわわわーとしているうちに先生が破水させ一気に陣痛が強くなる。

3回いきんだところで、

「あ、産まれそう」と自分で口にした。

次にいきんだときにはニョロんと産まれた。


「アギャアー!!うアギャアァァァ!!!」


あれ?私、間違えて恐竜を産んだのかな。

長男はへやーんへやーんと泣いていたので

あまりの違いにビックリした。

間髪入れず妊娠と出産をしたからなのか分娩中に痛いと思わなかった。

鼻からスイカではなく、鼻からプチトマトくらいの感じだった。

ラッキー!!

と、思っていたのはその一瞬。

先生が私の下腹部を鬼ゴリ押しする。

後産の処理だ。

これが長男の陣痛ほどに痛かった。

あ、そういえば横にカツオが居たんだった。

コイツが居るならもっと苦しみながら出産を

見せつけてやった方が良かったかもしれない。

なぜなら、

「うわぁー...血がすごい...気持ち悪い...」と

言ったからだ。

……産後の恨みは一生という言葉を教えたい。



到着から2時間後には個室へ移動するという

速攻分娩だったので、私がベッドごとガラガラと個室へ移動する時には産院の待合室は検診やらの妊婦さんでいっぱいになっていた。

ふと見るとこちらへガッツポーズをして長男を抱いている母が居た。そうだ、今日はちょうどこの産院で長男の予防接種を予約していた。

私が産気づいてしまったので母に代わりに注射をお願いしてたんだった。

弟が産まれたことも、これからチックンされることも知らない長男がちょこんと座っている。

……泣くなよ、うちのせがれ。



ヒクヒクした後であろう顔の長男と母が部屋にやってきた。

「早かったねー!大丈夫だった?」

「来るの遅いって怒られた」

「ホントに!危なかったじゃん!」

「でもそっこーで産まれたし痛くなかった」

「じゃあもうこの子は親孝行したね!」

「そのかわり後陣痛めちゃくちゃ痛い」

「2人目は子宮の戻りが鈍いのかね?ママもアンタのとき後陣痛つらかったもん」

「お股事件簿よりマシだけどね!」

「そうね...」


次男はチンパンジーでもガッツ石松でもウミガメでもなく、カレーパンマンに似ていた。

……これは父親似だな。中身は似るなよ。

そして長男よりも母乳を飲むのが下手くそだ。

何回練習しても上手く飲めない。

それに起きてる時間より泣いている時間の方が多く、私は退院後が心配になった。

次男の夜泣きにつられて長男まで起きたらもう

阿鼻叫喚じゃないか。私の体は1つだし腕は2本しかないのだ。足も使うか?


不安を抱えたまま退院の日を迎えた。

めちゃくちゃ泣く。

実家へ向かう道中、ベビーシートに乗っている長男は大人しく次男は口から火を吹いている。

……赤ちゃんってこんなに泣くの?

……これは、、、覚悟しないと。


お腹が空いているのかと思い授乳をしても、

母乳を哺乳瓶に移しても上手く飲めない。

粉ミルクに変えても大さじ2杯分くらいの量で

もう飲まなくなってしまう。

オムツを見ても変えても抱っこをしても何をしても泣き続ける。24時間の内20時間は泣いていると思う。ついに母からこう言われた。

「仕事が休みの日とか仕事から帰ってきた時はなるべくママも頑張るけど、夜の間だけは本当に頑張ってくれ!頼む!お願いだから!」

私はその言葉をキッカケに産後うつになったと思う。幸い、長男は1度寝たら起きないので

次男が火を吹いていようがビクともしない。

……お願いだから静かにして、、、

……1時間でいいから、、、

私はベッドに寝ることはもちろん、座ることも許されない状況になっていた。

立ったまま抱いてユラユラし続ける。

何時間も何時間も何時間も何時間も何時間も。

たまにその状態で寝てくれる時がある。

悟られないように細心の注意を払ってソファーに座ろうと試みる。成功したときは抱いたまま

座って寝る。長くは続かないのだが、失敗したときはスクワットぐらいの体勢でバレて怪獣モードに戻ってしまう。


正直な所、泣き続ける次男に心底参っていた。

……赤ちゃんも色んな子がいて当然だよな。

そうやって自分の中で咀嚼するしかない。

でもその考えはSOSを出せない環境でたったひとり頑張る自分にとって首を絞める事だった。



そして私は1つ気になることがあった。

長男に比べて黄疸の引きが遅い。

むしろ黄疸が強くなっているような気がする。

次の検診で先生に聞いてみよう。

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