第55話 悲しみの成人式

幼稚園の時に隣に引っ越してきたKちゃんは、高校に上がってから少し離れた所に引っ越してしまっていたが、一緒に成人式に行く約束をしていた。



成人式、当日の朝。


着付けなど諸々の支度があるので早朝に起きて

まずぷぅ太くんに挨拶をする。

ハウスやらなんやら全て実家に運んで赤ちゃんと一緒にぷぅ太も里帰りしている。

横になっているぷぅ太。

いつもならすぐに駆け寄って隙間から鼻が四角になるほど押し付けるのに、動かない。


「ぷぅ太? ぷぅ太!!!!!」


慌ててぷぅ太を抱き上げる。

……冷たい。かたい。

昨日の夜までは確かに元気に見えた。

一緒に遊んだ。おやつも食べていた。

なのに。なんで。なんで?冗談だよね。

受け入れられなかった。

初めて会ったとき既に1歳だったけど、それでも

まだ3歳になろうかというくらいだ。

なんで……。

瞳にはもう輝きがなかった。

そうっと目を閉じてあげる。

病院に連れて行っても、もう……。

泣きながら着付け会場に向かう。

母に少し到着が遅れる旨を電話してもらう。


私は目を腫らして成人式に向かった。


同窓会に参加する予定だったが、断った。

予約してしまっていたので支払いだけ幹事の

友人に渡して帰宅した。

成人式で誰に会って何を話したか、全く覚えていない。考えていたのは早くぷぅ太のそばに行きたいという気持ちだけだ。



幸せの涙でいっぱいになるはずだったのに、

弟が出来てこれからたくさん一緒に遊んでもらおうと思っていたのに。

もう、叶わなくなってしまった。


ペットの葬儀屋さんに電話をする。葬儀屋さんが悲しみに寄り添いつつ名前や種類や年齢などを聞いてくる。また涙が出てしまった。

可愛い箱にフカフカを敷いて周りにお花を飾り

好物のおやつを入れてあげる。

最後のお別れをして、そのあとしばらくして

戻ってきたぷぅ太は小さな壺に入っていた。

ちゃんと頭が上になるように骨を入れてくれている。こんな形だったんだね、ぷぅ太。

ふわふわボディだったから分からなかったよ。


悲しくてしばらく納骨が出来なかった。

でも色んな動物さんと楽しく遊べる場所の方が

懐っこいぷぅ太には良いのかなと、やっと心の踏ん切りがついた。

きっとたまには遊びに来てくれるよね。

本当はどこか痛い所とかあったのかな?

成人式の日まで無理してたのかな?

もっともっと一緒にいたかった。


「ぷぅ太!大好きだよー!!!!!」

「お空で弟を見守っててねー!!!!!」


息子とぷぅ太が一緒に写る写真を部屋に飾る。

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