第50話 フリーター 最終 はや!!い理由はある

バレンタイン。


今でもこの行事の意味がわからない。

しかし期待されていたら困るのでとりあえず

催事場をふらふらする。

そもそも甘いものが好きなのか知らない。

和食が好きとか言ってた気がするから抹茶味の

チョコにでもしとくか。

お互いバレンタイン当日は仕事だったので少し遅れたバレンタインということにしてカツオの仕事が終わってから会う約束をした。

「おー、ありがとう」

笑顔だが抑揚がないのでよくわからない。

でも私も同じようなもんだから嬉しくても嬉しくなくても同じような反応をすると思う。

お互い休み希望を出し泊まりで出かける。

どこに行ったかは忘れた。

でも忘れられない日なのだ。



身体を重ねあった後いつもと違う事に気付く。


……避妊されてない……

「え?うそでしょ?え?なんで!?」

頭の中がごちゃごちゃだ。

「いや、なんかぁ~」顔がヘラヘラしている。

「え?意味がわからない。さっきまで付けてたよね!?え?なんなの?どういうこと?」

つまりは途中で勝手に外していたのだ。

私は経験が浅いからか興味がないからか、全然わからなかった。最初に付けたのを見ていたので最後まで付けているという先入観だろうか。

私はトイレに籠って泣いた。

当時、アフターピルと呼ばれる緊急避妊薬は

日本では承認されていなかった。

でももうトイレで悟った。

これは妊娠する、と。女の勘がそういった。



ギリギリ反応するか?という頃にドラッグストアで妊娠検査薬を買い家でこっそり調べた。

【2本線】

陽性を意味していた。

何度も説明書を読んだ。何度も何度も。

でも2本線は陽性の可能性があると書いてある。



私は【無月経】という体質で、初潮を迎えてから毎月きちんと生理がきたことがない。

1年に1回、、、2回、多くて3回くらいか。

母に相談して高校1年生のとき婦人科に行き検査をしたのだ。排卵自体はしているので妊娠は

出来る身体だが、いつ排卵しているか自分でもわからないからいつ生理がくるかわからない。

なのに、たった1回で妊娠したのだ。

高校1年生のときに行ったその婦人科を覚えていたので親に内緒で診察券を持って向かった。

途中、カラスに糞をかけられ服が汚れた。

ハンカチで何とか拭き取る。

この憤りのない気持ちをぶつける先はない。

カラスを睨みつけて病院へ歩く。


受付で妊娠の可能性を伝え、尿検査をする。

院内は混んでいて、やっと診察室に呼ばれた。

「妊娠していますね」

……やっぱり、妊娠しているんだ。

先生は不安な顔を読み取ったのかもしれない。

産む選択肢と堕ろす選択肢と金額や方法などをそれぞれゆっくりと優しく説明してくれた。

そしてお腹をエコーで映す。

「この袋みたいなのが赤ちゃんだよ」

……枝豆みたい。

「なるべく早めに、決めた方がいいかな」

……この枝豆が人間になるの?

先生がお腹のジェルを拭き取る。

……変な感じだ。

……自分のお腹の中に人間がいる。

自然とお腹を意識するようになっていた。



「妊娠、したんだけど」カツオに電話する。

「うわーーー、マジで!?」と驚く。

……何故みんな自分勝手なことをしておいて

勝手に驚く?どういう心境なのか理解不能。

しばらく「マジかー」しか言わない。


「私、産むから」そう伝えた。


「わかった。責任とる」

……どんな形であれ当たり前だろ。

カツオの責任は結婚するという結論だった。

その日、カツオは自分の母親に話があると言ったら言ったそばから「妊娠させたのか!」と、お見通しされた。そりゃ息子から改まって話があるなんて言われたら子供が出来たくらいしかないだろう。カツオのお母さんはシングルマザーで男3人育てた。3人とも同じ父親なのだが

その父親はほとんど家に帰らず家にお金は入れるもののどこで誰と何をしているのやら。なのに3人も子供を作るのだから世の中は本当に様々な夫婦がいるものだ。


次に私の家族に報告しなければならない。

何度かうちに呼んでいたのでカツオのことは

家族みんな知っている。

「今日、カツオ来るから」そう伝えておいた。


うちは皆で夕飯を食べ終わったあと祖母が部屋に戻るとリビングの照明をBARくらいの暗さにして飲み直すというのが定番だった。ポーチライトに照らされながらビールを飲み始めた頃。

「あの、お話がありまして」とカツオが切り出した。

「○○さんを妊娠させてしまいました。自分がちゃんと責任を持つので結婚させてください」

……母親から言わされてる感がすごい。

「そうきたかあー!ハッハッハー!」母爆笑。

父撃沈。

女の勘というやつか、母は冗談交じりに父に「結婚させてくださいって言ってくるかもよ」なんて言っていたらしく、父はあぐらをかいて「まだないでしょ~」と言ったらしい。

母は「妊娠させたって言ってるけどお互いの合意の元なら○○にも責任はあるでしょ」と言ったが私は即座に「ちがう」と訂正した。

恋人とはいえ合意なんぞしていない。責任は全てコイツにあるのだ。

両親は案外あっさりと受け入れてくれた。

ブチ切れられるのを覚悟していたし、カツオはうちの父に殴られてこいと言われていたらしく歯を食いしばっていたとのこと。


こうして私たちは付き合って3ヶ月後に出来ちゃった結婚をしたのである。

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