第49話 フリーター 2
「離婚しないことにした。ママが我慢すればいいんでしょ?結局さ、いっつもそう。ママがあーだこーだ言ったってパパは考え無しだからもうね、いいの。譲ってあげることにした」
……相変わらずの上から目線には脱帽です。
「それでいいならいいんじゃないですかね」
とりあえず離婚はしないらしいので、喧嘩も減っていただけると有り難い。
セールで忙しくなる前に佐川組と私を含め4人で早めの忘年会をした。
佐川組の中に1人、坊主?の人がいた。
本人曰くオシャレ坊主らしいがアパレル陣からすると【カツオ君】に見えるので、あだ名は
安直にカツオと呼んでいた。
クリスマス前、そのカツオに告白をされた。
別に好きでも嫌いでもなかったので付き合うことにした。好きでも嫌いでもなかったら付き合わないものなのかもしれないが、私の基準は
変質者じゃなければいいやくらいの感覚だ。
初めてのデートはどこかのイルミネーションが
綺麗な湖に行った。別に興味は無かったので
とりあえず「綺麗だね!」を連呼した。
そして予約された綺麗なホテルに入りまたまた
「綺麗なホテルだね!」と言った。
少しして先程ホテルの受付後に撮った写真がラベリングされたシャンパンが届いた。
……あ、だから写真撮られたのか。
「仕事が早いね!」と言った。今思えばたぶん
もっと別の言葉があったのにうっかりホテルの従業員を褒めてしまった。
カツオは特に良いところも無ければ悪いところもない。つまらなくはないけど楽しくはない。
会話になっているようでなっていない。
年齢は5個上で坊主と髭のせいか老けて見える。
結婚する気は全くないが、別れようと言われなければこちらから別れる理由もないといった感じで付き合っていた。
恋人がいればクリスマスや大晦日などは一緒に過ごすのだろうが、私は過ごさない。
家でクリスマスケーキを食べたいし、大晦日は父と一緒に年越しそばを食べたい。だから私は
「家族と過ごすから」と言って恋人イベント的なことはしたことがない。自分の誕生日も、
同じ誕生日の兄と一緒にケーキを食べる。いい歳して母がわざとケーキのお誕生日プレートに【〇〇くん〇〇ちゃんお誕生日おめでとう】と
書いてもらっていじってくる。
そういう時間は唯一、両親が喧嘩しない大切なひと時なのだ。だから私はそっちを優先する。
それが気に食わないというのなら私と別れた方がいいと思う。
今年もS先生から年賀状が届くのを楽しみにしながら出勤する。年賀状が届くより先にお店に行って元旦のセールの準備をしに行く。
防災の邪魔にならないように脚立を置き登る。
片手にはメガホンと在庫過多になってしまった
ダウンジャケットを持つ。開店の音楽が鳴り、
警備員さんが自動ドアを開けた瞬間から真っ先にメガホンで呼び込み開始だ。
このモールの客層は分かっている。その上で何をどう売るかが肝だ。
ポリエステルだけではなくダウンも入っている。そして何より少しAライン気味のデザインなので着膨れどころか少しクビレて見える。そして襟にもボリュームを持たせているのでマフラーいらず。薄手なのに暖かくスタイル良く見える素晴らしいその商品は、元々安価なのにセールで更にお安く2980円という値段になっている!
色は私が着ながら売っている黒、白と淡いパープルの3色だ。私たちは事前に朝礼で作戦をたてていた。
・私が呼び込み隊長をやる
・少しでも私の持つ服に目をやったら誘導
・とりあえず試着してもらう
・親子だったら異色を同時に試着してもらう
┗色を交換して試着してもらう
・再度、この洋服のメリットを伝える
・購入を決めたらそれに合う別の服も勧める
1人客は色で迷いつつも購入。
親子客は共有できるので色違いで2着購入。
アウターが安く買えるテンションをキープさせつつニットやデニムなどを合わせて試着してもらい客単価を上げる。
どの店舗でも在庫過多になっていたダウンジャケットが飛ぶように売れる。明日以降に他の店舗から在庫をスライドするよう急いで店長に
手配をしてもらう。
もちろん他の服もしっかり売り込む。
私は元日で声が初代ドラえもんになった。
3日にエリア担当のSVが様子を見に来た。
何故あのダウンがこの店では売れたのかの確認も含めてだ。店長が作戦を伝える。みんなで場所さえ良ければもっといけるのにーと悔やむ。
その数週間後、店長と副店長は異動となった。
そして私はあの渋谷109店に異動の打診がされたのである!!!
私は会社的には準社員扱いだったので正社員への雇用形態の変更と併せた異動である。
丁重にお断りした。
アパレル業界に腰を据えのは少々懸念点が多すぎるのと何歳まで対応できるか分からない。
一応人間なので衰える。結局は見た目に合う
歳相応のブランドを転々とすることになる。
自分はそれがストレスになり得ると思った。
あと109は自分が買い物を楽しむ所であって、
働くのはちょっと違う。
私は自転車で通えるこのゆるーい感じが良い。
109という体育会系は御免だ。
準社員は基本的に異動がない。だから準社員で
面接を受けたのである。後々は事務業で働きたいと思っていた。
こうして1年の始まりに1番の大仕事を終えて、
私はS先生宛に年賀状を書く。
届いてから書く理由は先生の年賀状に込められた想いを受け取ってから書きたいからだ。
また来年。お元気で。
そう願いながらポストへ投函する。
来年の予定よりもかなり早くお手紙を書くことになるとはもちろん思っていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます