第47話 大学生 最終 はや!!

夏休みに入る前。

「退学します」と担任の先生に伝える。

介護職に興味が無いとは言いづらかったので

別の職業に就きたいと言った。

9月いっぱいで退学の手続きをした。

およそ4ヶ月の大学生活であった。



「あんた、学校辞めたいんでしょ」

そう母に問われて素直に「うん」と言った。

「どう見ても続くような姿じゃないもんね」

……兄と比べればそうでしょうね。

兄は何を思ったのか、神道へ進んだ。

いつから興味があったのかは知らない。

ただ、兄も私も少し似た趣味嗜好があり小説だったらミステリーが好きだし寺より神社が好きだし子供は観ないだろう陰陽師などを好んだ。

神道を学べる大学は日本に2校しかなく、その内の國學院大學神道文化学部に通っていた。

なので、雅楽で使う楽器の1つ鳳笙という笛の音が朝っぱらから頼りない音で響いていた。

兄の芸術的センスは、皆無だっ!!!

不眠症の私の目覚ましはいつも、ヒヨロロ~

プァッ~プゥアアア゛ア゛ア゛ー……という

全く上達しない死にかけの笛の音で起きる。


しかし、母から見れば一生懸命で可愛く見えているようだった。こちとら迷惑行為じゃ。


「お兄ちゃんの学費で〇〇万円、あんたの学費で120万円。パパとママは必死に働きました。

高校生くらいになったら育てることよりお金を出してあげることしか出来ないから必死に働きました。今も必死に働いています。でもあなたは既に払った120万円を約4ヶ月でドブに捨てるということです。それを理解してくれた上で退学するって言うんだね?」

「うん。介護、興味ないから」

「じゃあ接骨院も辞めるってことだね?」

「うん」

「あー、そこはちょっと安心したわー。なんかママ的にあそこ大丈夫かなぁって思ってたからさぁ。ちょっと胡散臭い...でしょう?」

「それは私も最近思うようになった。でも感謝しきれないくらいお世話になったのも事実だから誠心誠意、謝ってくる」

「一緒に行くよ。じゃないと上手く話を丸め込まれそうだからママもついて行く」

……「ありがとうございます」



恐らく、院長先生は分かっていたと思う。

介護の勉強に興味がなく身が入っていないことも、そろそろ辞めたいと言いに来ることも。

事前に電話をして、昼休憩の時間帯に行った。

いつもスリッパを拭いている入口で退学と退職とお礼を申し上げ、手土産を渡した。

「そうか。わかった。元気でな」

院長先生が言った言葉はそれだけだ。

そこにどんな感情や想いがあったのか、本当に全く感じ取れなかった。【無】に近い。

私は逆に安堵した。



まずは職を探さなくてはならない。

せっかくオシャレに興味も出てきたので

アパレル販売業務をやってみようと思った。

たかがフルタイムのアルバイト面接なのに汐留の本社まで行った。というのも応募した会社が

当時絶好調のアパレルブランドを抱える所で、雑誌もバンバン売れる時代だった為ほぼ正社員並の面接だった。アパレル業界なのでもちろん私服で参加だ。志望動機を語るのは勿論だが、同じく面接に来た人と1対1で販売員とお客様役を交互に行った。かなり実践的面接だ。

その後、無事に採用され、自転車で通える距離にあるショッピングモール内のお店に配属が決まったのである。



たった4ヶ月で120万円をパーにしたことに関してはスマンと思っている。

と、同時に子供は親を選べないけれど子供がどう成長するかによってまた、親の人生も変わるものだなと思った次第だ。

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