第44話 高校生 最終

お目当ての大学はAO入試で合格した。

部活も引退している。

私は接骨院のバイトが無い日は遊び通した。

しかしもちろん門限は引き続いている。


今日も両親は怒鳴り合っているのだがなぜ離婚しないのか不思議で仕方ない。

愛も情もないなら別れちまえばいいのに。

別れない理由を子供にするのはやめて欲しい。

私は恐らく1番トガっていたであろう幼少期並に収納できないサバイバルナイフになっていた。

……すれ違うだけで切れるぜ?

ということを意思表示しているのだが、如何せん幼少期からこの調子だ。平常運転だと思われている。分かりやすく反抗しなくては!


ある日、クラスメイトとカラオケに行った。

ギャルも入れば秀才もいるし、オタクもいるし

体育会系もいるし、ここがサバイバル場か?

そのまま【オール】することになった。

いつもは事前に誰々のお家に泊まりに行くと言っておけばダメとは言われなかった。

私は高校生の割に忙しい日々を送っていたので

気軽に泊まりやオールは出来ない。

その日も次の日があるので帰るつもりでいたが

犬も猫も鼠も食わない喧嘩を聞かされると思うと門限を守るのも馬鹿馬鹿しく思えた。

さらに、父と顔を合わせたくない母は私が帰ってくる前にもう部屋に入り寝ているのだ。

なので私の帰りを待つのは父だけになった。

……もうすぐ帰り支度をしないと門限破りだ。

……もう自転車にまたがないと間に合わない。

……もう、、、帰りたくない。

私は携帯電話を気にしつつ部屋に留まった。


メールの着信が鳴る。

「もうこんな時間だぞ。何してるんだ?」

父からだ。

「帰りたくないから、今日は帰らない」

下唇を噛み締めながら、送信ボタンを押す。

「そうか。気をつけて帰ってくるんだぞ」

……帰りたくないって言ってんじゃん。

……帰りたくない理由は気にならないの?

……この人たちで気を揉む方が馬鹿だ。

「トイレ言ってくる」と言ってドアを開ける。

何故か分からないけど涙が止まらない。

……自分はどうしたいんだろう。

……自分はどうされたいんだろう。

……愛情が、分からない。

トイレに行こうとしたのだろう。友達がドアを開けたら私がボロボロと泣いているものだから

ドびっくりしていた。

さっきまでL'Arc~en~Cielで盛り上がっていたが

私を囲みどうした?どうした?と心配する。

みんな私が泣く時は限界突破した状態だと理解している。バレーボール部の時があるから。


家庭状況を話した。うちだけじゃない。

他にも複雑な家庭環境の友達がいる。

だから話せた。みんな傾聴の姿勢がすごい。

共感性が高い。自分だったらと置き換えて考えてくれる。帰りなという者は1人もいない。

「じゃあ朝まで思う存分歌えーーー!!!」

そして入れられた曲は【紅】。

……最高かよ。

「くれないだあーーーーー!!!!!」


紅のおかげか私の喉はガラガラになった。

これは接骨院を休むに値する理由である。

起床時間頃に休み連絡を入れるのは私なりの

知恵といってほしい。

カラオケオール終わりの朝から隣の松屋にて

牛丼を食らう女子高生たち。

私は米が苦手だが残しても食べてくれる食いしん坊さんがいるので大丈夫。

卒業しても、もし疎遠になっても、この思い出は最高の青春として残るんだ。



家に帰るとぷぅ太がお出迎えしてくれる。

お水と餌を多めに入れているので1泊くらいの

お留守番は寂しいだろうけど良い子にできる。

遊んであげられなかった言い訳をして朝から

たっぷりとじゃれ合う。

「ねぇ、ぷぅ太。もうすぐ卒業だよ」

ゴロゴロする人の顔をクンクンしながら平気で

顔面に乗ってくる。髪の毛を齧る。

「高校生活、長くて短かったよ」



桜の木に緑の新芽が出てる。

あの新芽は私だ。

暖かくなれば勝手に花開くとは限らない。

根っこから幹を伝って栄養を摂り育つ。

吸い上げるそれは良い質か悪い質か。

何を吸うかによって新芽の人生は変わるのだ。

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