第42話 高校生 20 捕まる

今までの人生もこれからの人生も全て全て全て

自分自身の結果の集合体だ。



私はmixiで連絡した人と最寄り駅で待ち合わせをして会うことにした。

危機管理能力もクソもない。これで殺されようが何されようが私がした選択だ。

その人は車で来た。

……何歳くらいだろう。

助手席に乗る。

……普通のニットに見えるけど良い素材だ。

「ゆっくり話せる所に行こう」

「はい」

待ち合わせした場所の反対口に向かう。

……ホテル街か。

「空いてるからここにするね」

「はい」

車に乗ってあっという間に目的地に着いた。

初めて入るホテル。ソファーに座る。

「何歳なの?」

「高3の18歳です」

「そっかぁ。あ、忘れ物取りに車行ってくるからちょっと待っててくれる?」

「はい」

……ボーっと待つも意外と遅い。

ガチャ。ドアの開く音がする。

……ん?足音が多い?

そう思った瞬間に目の前には他に知らない男性が2人立っていた。

……増えた。

「ごめんね。実はおじさんヤクザなんだ」

……あ、ヤクザか。

「そうだったんですね」

「なんで今こういう状況か、わかる?」

「何となく想像はできますが教えてください」

「君たちみたいな子に勝手に売りやられちゃうとおじさん達の仕事が減っちゃうでしょう?」

「そういう世界ですもんね」

「だろう?だから勝手するやつを捕まえてうちの会員になってもらってる。出会い系でどこぞの知らねーやつとやるより安全だぜ?ちゃんとうちの組に登録してるやつらだからな」

「つまり私はあなたたちのお仕事の邪魔をしてしまったので、会員になり会員同士で出会うことによりお金が回るということですね」

「そういうこと。でももちろんタダで働けなんて言わねぇ。そっちの取り分は8割。残りの2割はこっちが貰う」

「わかりました。私がこの世界のルールを破ったのが悪いので、従います」

「あと、海外に飛ばす用に1本撮るから。おいカメラとか用意しとけ!」


私は大人しく用意する2人を見ていた。

おじさんが怪訝な顔をする。

私がキョトンとした顔で見返す。


「お前、この状況こわくねーの?」

……あぁ、ヤクザだもんな。

「怖くないです。そもそも相手が誰か分からない時点で怖いも何もないので。それがたまたまヤクザの方々で私がルールを犯したから今この状況になっている。自業自得じゃないですか」

……ヤクザを目の前に淡々と話す自分が怖い。

おじさんは再び怪訝な顔をする。

「お前さ、なんでこんなことした?俺は今まで何人も嫌という程こういう状況に立ち会ってきたけど全員が全員俺がヤクザだと打ち明けてAVで海外に売り飛ばすって言うと泣き喚くぞ」

「それはその人たちが覚悟なしにこういう事をしているからじゃないですか?」

「初めてか?」

「はい」

「なんでやろうと思った」

「ただ話し相手が欲しくて。でもそんな人いないですよね。わかってたことなんですけど」

「話してみろ」



私はどれくらい喋ったのだろう。

男性が苦手になった理由、その反面で自分自身をぶっ壊したい気持ちになったきっかけ、学校で起きた事件やその時の自分の状況。助けてくれた大人たちへの感謝と、決まっているこれからの道。

自分の人生の殆どを話したかもしれない。



「この世界に入った女は全員同じ人生を生きてる。体を売って簡単に大金が手に入ってその金で高級ブランドのバッグを引っ提げてホストだなんだと狂っていく。薬に手ぇ出すやつもな」

「そうなんですね」

「それでもお前はいいって言うのか?」

「はい。もう覚悟はさっきしたので」

…………

「お前、逃がしてやるよ」

「逃がす?何でですか?私はルールを破ったんですよ?」

たぶんこの時の私の目は自暴自棄の色ではなく逆にギラギラしていたと思う。

「お前はこっちに来ちゃダメだ。就職も決まってる。ちゃんと目標あるじゃねーか。家族じゃなくても良心的な大人がいるじゃんよ。お前は表の世界でしっかり生きろ。わかったな?」

……私の覚悟は白紙になった。

「そう言うなら...。わかりました」

「約束だ、一生こっち来るんじゃねーぞ」

「わかりました。あの...話聞いてくれてありがとうございました...」

「とは言え、逃がすっつっても上のモンに理由を説明しなきゃなんねぇ。お前、彼氏の子供妊娠したけど親に虐待されてて産む家庭環境じゃないから堕ろす金稼ぐために仕方なくやったってことにしろ。無いと思うけどもしうちのモンから連絡来たら今言ったことと同じように説明しとけ」

「わかりました」

「おい!お前らもわかってんな!?」

2人の男性が威勢よく元気に返事をする。

「駅まで送ってやるよ」

「あの、色々とすみません」

「俺はお前みたいなのに会うのは初めてだ」

「そう、ですか」

「正直、俺も嫌がる女を無理やりやんのは気が引けんだよ。疲れるし、趣味じゃねぇ」

「そうなんですか?」

「わーわーといつまでもうるせーのは顔引っぱいて黙らせないといけねぇしな」

「それは...された方は痛いですね」


待ち合わせた場所に出戻ってきた。


「さっきの設定アタマん中入れとけよ!あとこれからはまともにやれよ?わかったな」

「はい。もうお会いすることは無いです」

「そりゃ良かったよ!元気でな!」


そう言ってよく見ると高級車に乗る名前も年齢も知らないヤクザのおじさんを見送る。

私は今起きた出来事を頭の中で整理した。

とんでもない確率と確率の掛け合わせだ。

でも覚悟を決めていたのは本当。

あのおじさんは私の何が決めてで逃がすことにしたのだろう。

やはり義理と人情の世界だからだろうか。

逃がしてくれたことよりも遮らずに話を聞いてくれたことが嬉しかった。


ありがとう、おじさん。

表の世界で頑張ってみます。

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