第41話 高校生 19 母離れ

2年生も終わりを迎える頃、私は成績表すら母に見せなくなっていた。

と、いうよりいつもは「成績表」と言って手を出してくるのだがあまりにも学校の勉強をしないのでクラスの後ろから数えた方が早いくらいになり見ることを諦めたらしい。

当時はAO入試があったのでそれで受かる学校の目星をつけていた。

しかも私が大好きな【池袋】にある!

服は安いしアニメグッズは沢山あるし飲食に事欠くこともない最高の街だ!


その私の地元は【暴力と風俗と多国籍】の街。

最寄り駅の中華料理屋は暴力団のお食事処になっていて黒光りする車が堂々と駐車違反をして

ご挨拶をするイカツイ方々。会合か。

別の方を見れば下着が見えそうな服を着て大人のお店に入っていく女性。スラッと細い両脚には蛇が戸愚呂を巻いている。細くて羨ましい。

歩けば聞こえる言葉は中国語に韓国語にフィリピン語にクルド語に...これは何語だ?

あぁ、ヤク中か。

なんてこともしばしばというか日常茶飯事。

【NK流】という言葉がわかる人は。うん。笑



部活での内乱が終わってからは本当に毎日楽しい日々だった。

普通の高校生活を送れていた。

幸い赤点を取るほどの成績ではなかったので

これまた無事に3年生になることが出来た。

バレー部にはまた1年生が入った。

マネージャーは私だけなので引退したら女子バレーボール部にマネージャーは居なくなる。

居なくても大丈夫な体制を整えていく。

誰がスコアブックを書けてもいいように教え、

ストレッチのやり方を教え、筋トレを教え、

夏休みを迎えた。苦い思い出ばかりだ。

しかし!今年は違う!旅行に行くのだ!

4連休をもらい久しぶりの【大旅行】に参加。

大旅行と呼んでいるのは、父方が6人兄弟なので

親戚がめちゃくちゃ多い。祖父母から孫世代まで集まると30人弱になるので、大旅行。


大旅行はいつも違う所に行く。

今年は山小屋風ロッジをいくつか借りてグループ別で寝泊まりすることになった。

前述した通り、私はいとこの中で年長者になるので同じ歳のいとこと一緒にチビッ子たちの

面倒を見るのが主な仕事だ。

大人たちは大酒をくらって大笑いしている。


2泊3日、最後の就寝時。

私はその日なかなか寝付けなかった。

昨晩よりも寝付けなかった。

いとこたちは既にぐっすり夢の中にいる。

私は寝たフリをすればそのうち眠りに落ちるだろうとタオルケットにくるまっていた。

すぐ横では母たち女性陣だけが集まり永遠に終わらなさそうな会話をしている。

なんとなく聞いている程度だった。しかし

「この前行きつけのディスコで告白されちゃったんだよね!それで2人で飲み直そうってなって別のお店に向かう時キスされてさー!」

「えー!それでどうしたのよ!」

「もちろん既婚だし子供もいるしって言って断ったよ!でも悪い気しなくてさぁ、なんか」


人間が一瞬で奈落の底に落ちるのはこういう感覚なんだと知った。

怒りと悲しみと軽蔑と、感情と呼べる全ての

モノが混ぜ合わさった。

解散して親戚たちと別れるまでなんとか自分を保った。解散してからは一言も発しなかった。

その日の寝る前。

あの会話が頭から離れない。

確認せずにはいられなかった。

同じ歳のいとこにメールをして叔母さんのメールアドレスを教えてもらう。

私は「昨日みんなで話していたこの会話はママが言った言葉で間違いないか。なぜ批判しないのか。パパの立場はどうなるんだ」と責めた。

すると数分もしないうちにバタバタと音を立てながら母が部屋のドアを開けて入ってきた。

「あんたね!何でこんなことわざわざメールなんかして聞いてるの!どういうつもり!?

パパに知られたらどうするの!?」

……小声なのに怒鳴っているから不思議だし、

どういうつもりなのかはこっちが聞きたい。

「付き合ってもないし何の関係も持ってないし断ってるんだから何でもないことでしょ!」

……私が言いたいのはそういうことじゃない。

「なんで自由にさせてくれないの!」

……充分に自由にやっているではないか。

「パパはね!この前ママの首を絞めて殺そうとしてきたんだからね!そういう人なんだよ!」

……そうさせたのはあなたでしょう。

「もうこんなメールしないでよね!」そう言ってドアを閉めて出ていった。


私は【私自身を無性にぶっ壊したくなった】。


元々希薄だった異性への好意。

付き合っても裏切られる行為。

結婚という概念、価値観。

自分以外の者と解り合う必要がどこにある。

浅く狭いコミュニティの中で自分さえ良ければいいのなら、さぞ楽しいだろう。


翌日、寮があって資格の取れる学校を探したが見つからなかった。卒業と同時に実家を出ようと思ったが難しそうだ。


その時ふと思い出した。

mixiというサイトを。


そこで稼ごうと思ったわけじゃない。

単純に話し相手が欲しかった。

自分の心の内を聞いてくれ、うんうんと頷くだけでいい。同じように浅く狭いコミュニティで

何かと葛藤している人が居て欲しかった。

【私だけじゃない】と、思わせてくれる人。

でもそんな重い想いの人はいなかった。

ただ目に付いたひとつ。

【本番とかは苦手なので...無しで。2】

という書き込み。

女子バレー部で培った知識がここで役に立つとは思わなかった。本番と数字の意味。


私はなんとなく連絡をしてみた。

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