第40話 高校生 18
今にも薄氷が張りそうなバケツに手を入れ感覚が無くなりそうな指に力を入れ雑巾を絞る。
接骨院では毎日が大掃除だ。
汚い所で体は綺麗にならない。
本音を言うと、結構しんどい生活だ。
学校や部活がなくてもクラブチームがあるし
勉強会やお遊びにも参加しなくてはいけない。
それでも、家にいるより断然いい。
私には門限が設けられていて、遊びに出かけた日は22時までに玄関ドアを開けないと死亡フラグが立つ。22時数分前から閻魔大王が玄関で仁王立ちしているのだ。
1分でも過ぎようなら「過ぎた理由を述べよ」と
尋問が始まる。
私が1度学校から帰り、着替えて出掛け直し、
ドアを開けると門限が過ぎていないのに閻魔大王が仁王立ちしていた。
「このローファーは何だ」と尋問された。
寒いのでルーズソックスの下に紺色ソックスを重ね履きしており、足が浮腫むとたまにローファーがキツくなる。そんな時【踵を潰して】履いていたのだ。
いつもはご丁寧に脱いだあと踵部分の癖を直すのだが、その日はうっかり忘れてしまった。
閻魔大王は裁ち切りバサミを持ちこう言った。
「潰してるってことは踵の部分いらないよね」
ハサミで踵部分を切断しようとする。
「申し訳ありません」
ここで靴下の重ね履きのことを言っても無駄なので、とりあえず謝り2度としないと誓ったところ私の踵部分は守られた。
踵を潰して履くことがどれだけみっともない事かをコンコンと説教される。
……ちぇっ。ウッカリしたぜ。
そんな母娘攻防戦を繰り広げる冬、私はインフルエンザになった。
学校でも接骨院でも特に流行っている様子はなかったのにインフルエンザになった。
もう2度目なので高熱と関節痛が出た時点で
……あ、インフルエンザかも。
と何となく分かった。
かかりつけの病院に1人で行く。
うちは2階建てで1階に自室がある。
もちろん学校は休み部屋に隔離だ。
こんなとき心配してくれる親がいて良かった~と思えればいいのだが、
「欲しいものがあったら電話かメールして」
自分にうつって仕事を休みたくないのだ。
だから1人で病院に行って自ら隔離する。
こんなに心細いことはない。
私は合計で4回インフルエンザになっているが
家族の誰1人としてインフルエンザになったことがないのだから、私だけコウノトリさんが間違えて落っことしたのではないかと思っている。
私が病弱かつ怪我ばかりするので母は自分のせいだと言う日もあれば、牛乳を飲まないからだとエビデンスの無いようなことも言ってくる。
いや、自分自身がエビデンスなのだ。
私は牛乳も人参も大嫌い。
母は牛乳も人参も大好き。
自分が子供の頃から欠かさず飲食していた物は
病気にかからないと思っているのだろう。
兄も牛乳飲まないのに。
接骨院は月1くらいで一応シフト休が出せる。
うちの高校は毎年冬にマラソン大会がある。
人口池を中心に広々としたその公園の外周は
約5km。女子は2周で男子は3周する。
このマラソン大会の次の日はシフト休を出したので終わった後は友達の家でお泊まり会!
家に帰らずどんちゃん騒ぎができる!
大会当日は現地集合現地解散、翌日休校。
欠席した場合は補習にて学校の周りを地獄かというくらい同じ10kmを走らなくてはならない。
景色が綺麗な10kmの方がいいに決まってる。
高校のすぐ隣がラブホテルの外周なんてカップルだって入りにくいだろう。
去年は野球部でY君とゴチャゴチャしているときにマラソン大会があった。
部員は何位以内、マネージャーは何位以内と
監督から指示があった。今年は無い。
わたしは長距離を走ることが好きだ。
自分の荒くなっていく呼吸とそれに合わせて前に出る脚。歩いたり止まったりしたら即ゲームオーバー。自分に負けたことにしている。
数年後ハイキュー!!という漫画を読んだら孤爪研磨くんというキャラが同じような事をしながら走り込みをしていて性格似てるなと思った。
スタートラインからの順番は決まっていない。
私は最前列を立つ。スタートの号令がかかる。
ここからは自分のペース。
若干の坂もあるので2周目は結構きつい。
こなきが「抜かせー!」と騒いでいる。
と、いうことは前を走る者がいるのか。
気持ちよく10kmを走り切った。
父母会がバナナとミカンと飲み物を配っているが今年はY君の母親はいないようだ。
だいぶ待ってから友達たちがゴールしてきた。
友達は「死ぬ死ぬ死ぬ」と言いながらしっかり
バナナもミカンも食べていた。私はバナナ嫌いなのでミカンで。
ゴールした生徒は先生が確認しているので好きに帰っていい。いつメンが揃ったところで親が不在がちの友達の家に直帰する。
めちゃ背が高くて大人っぽい友達の家に着いたらまずは買い出しだ。
その子とスーパーマーケットに行けばお酒も難なく買えてしまうのだ。
このメンバーはめちゃくちゃお酒が強い。
どれだけ飲んでも泥酔したやつがいない。
だから楽しく飲めるのだ。
喋るだけ喋ったあと、床にゴロ寝が2人とベッドが3人。本当は床に3人の予定だったが少々ふくよかな友達も「ベッドで寝る~♪」と言い出したので、私は縦長と横長に挟まれる形で眠ることになった。不眠なので寝たり起きたり。
そして朝一番に起きた私は起き上がろうとした瞬間、魔女の鉄槌を受けた。ギックリ腰だ。
友達は爆笑している。
私は泣きながら爆笑している。
泊まらせてもらったお礼を言って何とかバスに乗り込み家路へ。
「あんたまだ高2でそれかい」と母に言われる。
翌日「阿呆か~」と院長先生に言われる。
もちろん飲酒していることは内緒だし口が裂けた方がマシだ。湿布を貼ってもらう。
コルセットを貰って装着しながらバイトだ。
休憩時間中に治療をしてくれる。
数日の辛抱だ。
ギックリ腰が治った頃、体育館でマラソン大会の表彰式があった。
「4位 ○○さん」
前に3人もいたのか。だから「抜かせー!」か。
私は去年1位だった。
しかしその1位には苦い思い出があり、正直今年は1番を取りたくなかった。
去年の男子1位は因縁のY君だ。
内部でイザコザしてる中で揃って1位ほど気まづいものはない。と、思っていたら今年の男子4位はY君だった。
……合わせてくんじゃねーーーよっ!!
別に合わせたわけでもないがムカついたのだ。
来年はもっとちんたら走ろうと心に決めた。
10位までは舞台に呼ばれ表彰されてしまうので来年は人口池のキラメキでも見ながら走ろう。
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