第39話 高校生 17
「離婚したらママとパパどっちと住む!?!!」
疑問形はほぼなく、押し付けの方が強い。
つまりは自分についてくるのが当然の様に聞いてきているのだろうか。
はたまた自分についてきて欲しいという強い願望の表れだろうか。
恐らく両方だ。
「おばあちゃんと住みます」
「ふぅーん。そっか」
ムカつく笑みをして背を向ける。
おばあちゃんと回答しても母方の祖母なので
もれなく母がついてくると思うが。
どちらかを選べるほどどちらも嫌いじゃないし
むしろ好きなほうだ。喧嘩していてもまた前みたいに戻って欲しいと願いつつ怒りが増える。
両親どっちか選べ?ふざけるな。
子供にそれを聞いて聞かれた子供がどれだけ酷な思いをするか親のあんたが想像できないの?
母は兄にも同じことを聞いていた。兄は、
「俺の前で一生そんな事聞くな!!!」ピシャリと言われていた。
兄が怒るのは小学生の時にやっとクリアしたボス戦をセーブする前に母が掃除機でパーにした時以来だ。私は今日という日まで兄が怒った姿を見たのはその2度だけである。
夏合宿の事件から季節は秋を迎えた。
キャプテンはストレスで練習中に過呼吸を起こすことが度々あった。
ストレッチを手伝い体を労う。
私もストレス性の頭痛で過剰に痛み止めを服用していた。痛くなくても不安から飲んだ。
飲んで飲んで飲みまくった。
そのたった1人の3年生、キャプテンが引退する時期が近付いてくる。
そうなると自ずと次期キャプテンを誰にするかというミーティングをしなくてはならない。
新しい顧問とキャプテンと話し、このミーティングで少しでも蟠りが減ればと一人一人の気持ちを吐き出す時間を作った。
同級生3人も新体制をどうにか受け入れようとしているように感じたが、最初の態度もあり引くに引けないといったところか。
ぬるま湯部なので引退試合はすぐ負ける。
みんながそう思ってる。
でもキャプテンに少しでも花道を作りたい。
みんながそう思ってる。
……無言になったミーティング。
……もう何を話せばいいのか、、、
「ごめん」
……??
声のした方を見ると、私に1番キツくあたっていた同級生が下を向いている。
誰に言ったのかはわからない。
だけどその一言はもの凄い影響力で、
もの凄い勇気だったと思う。
泣き出す部員、泣きながら励ます部員、泣きながら笑うキャプテン。泣かない私。
上を向いて目の水が零れないようにする。
私たちは子供なりにどうにか咀嚼しようとずっとずっと皆が頑張っていた。
いつ切れてもおかしくない糸を張っていた。
短い高校生活が最悪で終わらないように。
改めて新しい顧問とコーチに挨拶をした。
ボール拾い。
返球すると「ありがとう!」と返答される。
「先輩、トス上げお願いします!」と後輩も気負いせず話しかけてくれる。
部室
「バイト先に食べに来てくださいよー!」
「原付の免許ほしいなー」
4人で戸締りを確認してそれぞれ帰る。
心の底から安堵した。
もうこの墨色からは出られないのではないかと
毎日毎日不安だった。
とてもとても長い年月が過ぎたように感じる。
でも残念ながら○○は退部してしまった。
しかし登校する意思が出てきている様だ。
文化祭までに来れたらいいな。
私は接骨院での勉強も日曜日のクラブチームにも行っている。院長先生には感謝だ。
「お前、うちに就職しろよ。柔道整復師の資格はもちろんだけど、介護事業も始める予定だから将来的に社会福祉士の資格も取って介護事業をお前に任せたい。今やっている勉強も役に立つだろ」
こうして私は高校2年生にして就職先が決まったと同時に進学する学部も決まった。
私は幼稚園児の頃から将来の夢というものが
一切、全く、これっぽっちも無かった。
さも夢があって当然の如く誕生日カードに将来の夢を書けと先生が言ってくる。
私は母がケーキ屋さんでバイトしていたという話を聞いたことがあったので、パクった。
将来やりたいことなんか将来決めるし。
というわけで私は夢やら将来やらを意識して生きていなかったので、好きなことでレールに敷かれるならまぁいいかと気楽に考えた。
蟠りが無くなってからは早かった。
「ありがとうございましたあー!!!」
引退試合は初戦で呆気なく終わった。
それでも皆の顔は生き生きとしていたと思う。
次期キャプテンは、Tちゃんだ。
Y君はTちゃんをフッた後、私がフラれた男子生徒と付き合ったそこにいる後輩と付き合い始めたので私もTちゃんも2人には呆れてしまった。結局のところ高校という狭いコミュニティにいるのだから仕方ない。
接骨院から自転車を漕ぐ。
これから迎える冬の夜空は何色だろう。
去年は墨色だった。
雲の合間から見えるシリウスの輝きが悲しく思えたのは何故だろう。
星を見て悲しくなるなんて。
そういえば、中学生の時に見たしし座流星群の流れては消える星が何だか悲しかったな。
その時にはもう人生は輝きと消失の繰り返しだと理解していたのだろうか。
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