第38話 高校生 16 青春とは?

飛び交う言葉ひとつひとつがナイフだった。


刃先は私と学校に来ていない○○へ向く。

ニュースを読めば女子バレーボール部で学校に来ていない○○が被害者だというのは容易に

想像ができる。

そして懲戒免職に【追いやった】のは私だ。

その日から私は部活だけではなく学校全体で

【空気】となった。

教頭先生以外の教員すら私を避けている。

腫れ物には触るなという雰囲気だ。

このニュースを他の生徒が授業中に笑いながら話題にしても先生たちは否定も肯定もしない。

「静かにしなさい!」と、言うばかりだ。


それでも私は部活に行った。

新しい顧問は男性で副顧問は女性の先生。

どちらも私と同じようにバレーボールを知らないままこの状況で飛び込んできてくれた。

かといって私の味方をするわけにはいかない。

あくまで顧問として中立に、そして荒んだ部員の心をどうすべきか悩んでいた。

「バレーも知らないのに監督とかバカでしょ」

「マジでキモイんだけど」

「見てるだけじゃん」

「てかマネージャーもいらないよね笑」

「なんで毎日来んの?」

わざと聞こえるように話している。

こんなのもう慣れっこだ。

だから先生、そんな目で見ないで下さい。


【学校から無視されている】とは親に言えなかった。言いたくなかった。

でもある日、死ぬんじゃないかという程の激しい頭痛に襲われて本当に早退した。

接骨院に休みの連絡を入れる。

「頭痛の種類によって冷やすか温めるか変わるから、とりあえず冷やして悪化するようならやめて部屋暗くして静かに横になってろ」と。

救急車を呼ぶか救急外来に行くかという話になったが「大丈夫だから」と、断った。

呼吸をするのが精一杯だった。全く動けない。

母の脳腫瘍のこともあったので遺伝的に何かあったらと翌日学校に行く前に脳神経内科で検査をした。特に異常はみられなかった。

病院の先生は制服を着て弱々しく答える私に

「何かつらい事があるのかな?つらい事は先生やこの看護師さんが聞いてあげるよ」と言った。

ストレス性のものだと診断したのだろう。

「大丈夫です、ありがとうございます」

痛み止めの薬を少し多めに貰って学校に行く。


また今日もH先生のことで授業が止まる。

その度に刺さる視線。

……頭が痛い。

放課後の清掃の時間になった。

その日はクラス清掃の当番で黒板を綺麗にしていると、いつもクラスで一緒にいる友達が笑いながら話しかけてきた。

「結局H先生のことって本当なの?笑」


気付いたら私は教壇を拳で殴っていた。

気付いたら教壇に突っ伏していた。

気付いたら大声で泣いていた。

堰を切ったように怒鳴っていた。

「何で笑っていられるの!」

「何で面白おかしく…分かってるくせに!」

「その子がどんな気持ちでいると思ってるの!」

「私には皆の行動が理解できない!」

「全員!全員!全員大嫌いだ!!!」


その後どれほどの声量で泣き続けたのだろう。

プライドもクソもない。

教壇は涙と鼻水でグチャグチャだ。

泣き疲れた頃には他のクラスの人たちも集まっているようだった。

どこかの先生が「大丈夫か?」と声を掛けに来たが「今さら良い人ぶるな!!」と言って近寄らせなかった。

……もう、無理だ。

そう思って顔を上げようとしたとき顔にタオルが押し付けられた。

「ごめん…。追い詰めてごめん。ごめん」

さっき問いただしてきた友達だった。

私を囲んでいる人たちも泣いている。

「少し落ち着きたいから。外、見てくる」

そう言ってカーテンに包まり車道を見つめる。

少しして先程の友達が再度謝りに来た。

私は鉄で出来たカーテンから顔を出した。

いつも馬鹿みたいにはしゃぎ合っている友達たちがまた私を取り囲む。

私は今の自分の状況と気持ちを素直に話した。

今度は友達の目から涙が溢れ出ている。

「そんな部活辞めちゃえばいいじゃん!」

わざわざ過酷な状況に足を運ぶ私が理解できないと思う。私も自分でそう思う。

とっとと逃げちまえばいいのに。

正当な逃げなんだから。

「私もあの子も、何も悪いことをしてない。

なのに学校に来れなくなるなんておかしい。

こうやって皆と過ごす時間が奪われるなんて

理不尽以外に何か理由がある?私があの子を守ったとしても誰に感謝されるわけじゃない。

ありがとうと言われることは無い。ただの自己犠牲かもしれない。でも私は負けたくない」



それは号外が撒かれた時と同じように学年中の

話題になった。

誰も笑い事にしなくなった。

だからといってすぐ元通りというわけにはいかない。暫く私の心は閉ざされたままだった。


部活では相変わらず無視されている。

でも私の教室大泣き事件は耳にしているのか

【無視の雰囲気】が少し違う気がする。

新しい顧問へもキモイだのウザいだの言って

無視しているが、ただの日課の様に感じる。

少しでもバレーボールを知ろうと先生は練習に参加してくれているが全く会話がない。

顧問のおじさん先生は初心者にしては器用で上手い方だと思う。

どうやってこの人たちの心を溶かすんだろう。

私が辞めたところで変わらないのだから知らぬ存ぜぬで辞めてしまえばいいのかもしれない。

でも、辞めた後の私は高校生活を満足いくように送れるのだろうか。うん、送れない。


意地でも再建してやる!!!

という気持ちと同時に自分の中に溜めていたフラストレーションを発散するため私は分かりやすく良くない方向へ進み始めてしまった。


それはもう少し後の話だが、私はヤクザと出会ったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る