第37話 高校生 15
……またか
両親が怒鳴り合いながら喧嘩をする。
元々の不眠体質と相まって、益々の不眠だ。
喧嘩の理由がわかってきた。
母の行動だ。
共働きで平日フルタイムで働く母は毎週金曜日になると、1度帰宅してからメイク直しと着替えをして行きつけの飲み屋とディスコに行く。
兄の友人の母親のお姉さんが昭和生まれの大人が楽しめるよう敢えてディスコという形で運営している。
そこで母はぐでんぐでんに酔い潰れ帰宅し、
2時、3時にトイレでゲーゲーする。
父は母が帰るまで絶対に寝ずに待つ。
【色々と】心配なのだろう。
そんな母の背中をさする。
恩を仇で返すは言い過ぎだが、そんな父に対してゲーゲーして話せるようになったと思えば
「放っておいてよ!先に寝てればいいじゃん!」
と悪態をつくのだ。
帰ってきた土曜日は案の定の二日酔いなので
昼過ぎまで寝て特に何もしない。
料理は父で、掃除洗濯は祖母がやる。
この前まで母は父と腕を組み仲良く歩き買い物や食事を楽しんでいた。
のに。
この変わり様は何だろう。何故だろう。
私は夕食後、たまに祖母の部屋に行く。
ベットに横並びで座って話す。
祖母の部屋はリビングの隣なので防音施工がされているが意味は無いだろう。
「ママはどうしてあんなに怒るの?」
「ママは我儘だから…パパが大変だね…」
祖母が前に母に注意したことがあるらしいが
逆ギレで終わったようだ。
私は休まず学校へ行った。
母はお弁当を作るの面倒だから、と出勤前に
兄と私に毎日500円ずつ昼食代を渡した。
500円をギュッと握りしめ、財布に入れる。
正直、何で自分が学校に行くのか。
何で被害者じゃない自分が代理人として大人の不祥事に巻き込まれなくてはいけないのか。
何が私を突き動かしているのか。
自転車を漕ぎながら自問自答する。
合間の時間を見つけて教頭先生と話す。
教育委員会へ報告する予定のようだ。
いつもの廊下にあるソファーで話していると
教員室から野球部の副監督が出てきた。
私達が話をしているのを見て、ソロソロ~っと
ソファー横にある低めの本棚にやって来た。
【盗み聞き】しに来たのだ。
教頭先生はすぐに察して「何か御用ですか?」と
副監督に問いかける。
「いえ、資料をちょっと」とはぐらかす。
「申し訳ないですが急ぎでないようでしたら
後に出来ますか?」と遠回しに離れるよう言う。
【チッ】舌打ちでもしたそうな顔で睨む。
後にわかったが、自宅謹慎中のHと野球部監督が学校の様子を探るよう副監督に指示していた。
お前らなんか全員処分されろバーカ!
女バレは急遽、代理顧問を立てて部活が再開されることになった。
そもそも副監督という存在がないため部活のために名前貸しのようなものだ。
しかし、キャプテンと私以外に納得する者などいないだろう。
教頭先生に相談し、難しいと思うが口外無用で事の発端を話すことにした。
キャプテンが説明をする。
反応は様々だったが、同じ2年生部員から
「あんたが何もしなければこんな大事にならずに済んだじゃん!なんでそんな事したの!?」と
教祖様を慕う信者から猛攻撃を受けた。
「あんたのせいだよ」
「監督いなくて部活なんか出来ないし!」
「代理の先生とかマジ誰だよ。シカトする」
「監督がいなくなったらあんたのせいだから」
「何で女バレ来たの」
……私はただ○○を守りたかった。
……なんて事ないよって言えば良かったの?
……震える姿を見てそれが言えるの?
……自分がされたら喜んで監督の女になるの?
監督が戻ってくると信じて部活が始まる。
それと同時に私は部内で【空気】になった。
同級生はもちろんそのやり取りを見た後輩も触れちゃいけないと察し、私は1人になった。
キャプテンはキャプテンの立場があるので
私から距離を置いた。
ボール拾い。
今までなら返球すると返ってきたありがとうは
睨みつけられる無言に変わった。
自分の想いを押し殺し、やるべき事をやった。
部室。
私は居ない。さっさと着替えてみんな帰る。
残った私は鍵を閉めて最後に出る。
接骨院。
勉強に身が入らない。何のために勉強しているのか理由を失った。
「教頭からお前のことよろしくって言われてる」
「今の私は何で学校に行き部活に参加しここに来て勉強するのでしょうか」ポツリと出た言葉。
「お前の中の正義と優しさだろうよ」
……私を突き動かすものの正体。
それから何日が経っただろう。
1週間か、2週間か。
休まず学校に行き休まず部活に行く。
理科の先生は変わっていた。
理科の授業以外でも生徒たちはH先生が来ないことを笑い事にしている。
私はその瞬間、空気になる。
教頭先生に呼ばれた。
「H先生だけれど、懲戒免職となりました」
……私は頭の中の辞書で懲戒免職を調べる。
「妥当だと思います」
「○○さんは私たちでフォローします」
「お願いします」
「あなたは大丈夫?部活のこと聞いています」
「独りぼっちです笑。そりゃそうですよね。
慕っていた監督をこんな理由で失ったんですから、ぶつけるのは私になりますよね」
「多数で言えば学校に行かなくなるのに」
「私が学校に行かなくなったら○○はもっと学校に来れなくなるじゃないですか。○○も私も何一つ悪いことはしていないです。だから私が休むのは違うと思っています。意地です!」
「あなた達の話を聞いて、代理顧問の先生が正式に顧問をやると申し出てくれました。もう1人は新しく理科を教えている先生もコーチとして正式に皆をフォロー出来たらと仰ってます」
「受け入れないと思います。今もH先生は戻ってくると信じているので」
「そうね。初めから上手くはいかないわね」
「でも、ありがとうございます」
数日後、地元のネットニュースをわざわざ印刷してきて登校した生徒がいた。
「おい!みんな!これH先生の事だよな!!」
まるで号外のようにバラ撒かれる紙。
私の心はバラバラになった。
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