第34話 高校生 12
「監督とA先輩ってさ、付き合ってるよね」
後輩達が帰って行った後キャプテンが言う。
1年生が入り部員は潤ったのにA先輩は受験も
就活もしないのか、毎日部活に来る。
来ると言ってもみっちり指導してくれるとかではなく、軽く顔を出すと理科教師である監督がいる理科準備室に向かうのだ。
監督は理科準備室を教員室にしているのか、
普通の教員室に居ることはほとんど無い。
私はマネージャーという立場柄、監督へ部活動報告をするため理科準備室へ行くのだが、必ず鍵をかけている。ノックをすると鍵が空いて監督がドアを開ける。そこにA先輩がいる。
私とこなきのような親しさとは違う雰囲気だ。
茶色い瓶やら紙やら整理整頓がされていない。
よく分からない薬も置いてある。
私はこの【異質】な雰囲気の監督を心から崇拝することが出来なかった。胡散臭いのだ。
だからA先輩と付き合っててもおかしくない。
他の部員は練習に監督が来ると喜んでいる。
ジュースを買ってくれるからだろうか?
「野球部の監督はB先輩と付き合ってるよね」
おいおい、マジか。
剣道部のあのべっぴんさんじゃないか。
だから監督同士仲がいいって訳か?
変な所で点と点を線にさせられた気分だ。
どうやら8969のMAZDAロードスターに乗っているB先輩が度々目撃されているらしい。
まさか野球無休がここで伏線回収されるとは。
目立つ車と覚えやすいナンバーは注意だ。
今年は女バレも夏休み合宿があるのだが、
野球部と合宿が被らないよう私たちは夏休みの後半から2週間の日程になった。
そのあたりも恐らく2人の監督が仲良く決めたのだろう。
夏休みに入り合宿の日までは午前中の体育館利用が女バレになっていた。
体育館の向こう半分はバド部が利用している。
窓の開け閉めはバド部との戦いだ。
練習が終わるとおにぎりを食べてから接骨院へ勉強に向かう。屋内スポーツなのに日焼け肌。
午前中の診察が終わった頃に到着し、午後の診察が始まる時間までに診療所の全てを掃除することから私の修行は始まる。
綺麗好きだと思われるが染み付いた習慣だ。
夏休みなので普段より勉強時間が長くとれる。
地元では評判のいい接骨院だったのでとにかくひっきりなしに患者さんが来る。
中には表舞台で活躍する人たちもいて、その人たちは診察時間外に診ていた。
実際に院長先生の体をお借りしてテーピングの
練習をさせてもらっていた。
例えばバレーボールのスパイクを打つときに
肩の稼働を良くしつつ保護する巻き方。
足首や手首を痛めた時の固定の仕方。
使うテープの種類も場合によって異なる。
楽しい!楽しい!楽しい!
私は貪欲に吸収していった。
勉強がメインだがしっかりお給料が出る。
高校生に対して妥当な時給だ。
手渡しでお給料を頂くときは最高の瞬間だ。
そして夏休み合宿が始まった。
練習試合がメインでそれ以外は練習。
正直な話、ここの女バレは弱い。ぬるま湯だ。
でもみんなバレーボールが好きなのはわかる。
だから私もみんなの好きに応える。
まだスコアを書く時に迷ったり書いてるうちに次のプレイが決まって見損ねた時はベンチにいる後輩に聞けばいいのだ。
バレーボールに関して後輩は先輩です。
合宿中はもちろん宿題の時間がある。
宿題の時間に何人かが監督の部屋に呼ばれ
そこで宿題をさせられる。
基本的にあまり成績が良くない部員達だ。
監督の目を気にしつつ宿題をやるのでみんな
ゲッソリして戻ってくる。
夕食時、私は気になる事があった。
監督は皆と同じものを食べない。
食べているのを見ながら喋るだけ。
そして就寝前に部活動報告をしに部屋に行くと
テーブルの上はお酒の缶が並んで酒臭い。
たまに野球部の監督も居て一緒に飲んでいる時もあった。
「女バレどうだー?」と声をかけられる。
「楽しいです。接骨院の勉強も頑張ってます」
「よかったよかったー」
何時まで飲んでいるのか知らない。
翌日は練習が半分終わった頃にやってくる。
そして、合宿最終日は初めて行く学校での
練習試合だった。
荷物をまとめて皆で出発しようとしたところ、
「こいつ宿題終わってないから俺が後で車で送っていくから先に行ってろ」と、1人の後輩を残して先に向かえと指示された。
自転車通学の私たちは、利用したことのない
電車だったのでうっかり逆行きに乗車してしまい練習試合を30分も遅刻してしまった。
先方に謝罪し、すぐにアップを始める。
1セット目は案の定負けて、2セット目に入る。
私はベンチでスコアを書いていた。
「先輩、先輩、助けてください…」
声をかけてきた方を見ると、震えて泣いている後から来た後輩だった。
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