第33話 高校生 11

院内の掃除はハタキがけから始まる。

上から掃除して最後に下を掃除する。

雑巾を絞っていたら「絞り方合ってるな」と確認が入る。

タオルの畳み方重ね方置く向きも決まっていて

少しでも角がズレていようなら全部やり直し。

私はここの接骨院で体育会系のイロハとパワハラとモラハラを徹底的に仕込まれた。

【洗脳】に近い。

恐怖政治をしく独裁国家のど平民だ。

バイトの掛け持ちなどおこがましい。

すぐさま辞めた。

でも居酒屋の店長が私に教える時、後ろから覆い被さるように同じ椅子に座ってきたり顔を触ってきたりして気持ち悪かったのでどのみち辞めていたと思う。


この接骨院から自転車で帰ると40分かかる。

私は疲労から近道が出来るかもと初めて曲がった道により高校生にして派手に迷子になる。

「近道しようとしたら迷子になっぢゃっだあ」

大泣きしながら母に電話をする。

「あんたね!いい加減にしなさいよ!」

私は普段からふと前の人について行ってしまって迷子になったり、ふと違う道を通ってみたり迷子常習犯であった。

結局家に着くまで1時間以上かかった。無念。

リビングに上がってすぐ母にブチ切れられた。

その後すぐ同じ過ちを犯したことは割愛させていただこう。鬼の顔だけご想像ください。



部活外の私はというと、びっくり仰天!なんと

クラス全員と仲が良くなっていた。

まるで人が変わったかのように明るくなった。

もちろんクラスの中にはジャンル分けされたグループがあるのだが、私の性格上そのような垣根は関係がない。

私なりに個性を理解し尊重していたのでギャルだろうがオタクだろうが、自分の知らない世界を知っている人は皆すごい人に見えるのだ。

友達が虫と石との交友から始まった人間としては、人間と話すことの楽しさを見つけた。

1人だけ凄く嫌われている女の子がいたが、私はその子を嫌いになるほど親密に話したことが無かったので何故話したこともないのに嫌いと決めつけるのかわからなかった。


あのアーロン先輩ですら、泣くのだから。

よっぽどのことがない限り簡単に人を嫌いだなんだと嫌悪してはいけないと思っている。



そろそろ体育祭の時期だ。

秋ではなく初夏に行う。

【友達】がいる体育祭は楽しい。

黒ギャルは天サロを楽しみ白ギャルはことある事に日焼け止めを塗っている。

かったり~という雰囲気をわざと出す男子は大抵、髪型を常にネジネジといじっている。

私はNO日焼け止めでガッツリ参加派だ。


校庭の階段を降りた所にテントが張ってあり

そこで父母会がバナナや飲み物を出している。

友達がバナナ貰いに行こうと言うのでテントへ向かうと、1人の父母会メンバーと目が合った。

……Y君のアパートですれ違った女性だ。

恐らくお互いの頭の中にはその時の映像が同時に流れていたと思う。

「○○はバナナ食べないのー?」友達が私の名前を言った瞬間【お母さん】の顔がハッとする。

「あ、あの...Yの母です。あの...ゴ」

「もう関係ないので。飲み物、いただきます!」

踵を返して校庭に戻る。

「誰かのお母さん?」と友達が聞く。

「そうらしいね」


ゴ? ゴメンなさいなんて言わせない。

謝られるほど私は惨めじゃない。



院長先生はバレーボールのクラブチームを作っており、そこのオーナー兼スポーツトレーナーとして参加していた。

私はその毎週日曜日のクラブチーム練習や大会にも加わったため水曜日だけが休みだ。

クラブチームがない日は東京ビッグサイトなどで開催される医学会に参加したり、院長先生のご家族と遊びに行ったり、もうほとんど家族に近い存在になっていた。でもパワハラ要素はもちろんあるので、たまに腹が立つ。でも、人助けが好きな人なので尊敬する場面が多い。



体育祭の後、私は2人目の彼氏が出来た。

でもその人に言われた言葉をきっかけに私は

私の睡眠サイクルが人と少し違う事に気付く。

私は接骨院から家に帰って夕飯を食べお風呂に入り22時には布団に入る。

彼氏とメールをしている内に22時半には寝落ちし、入力途中の携帯電話が転がっている。


私が30分もしない内にしかも22時半にメールの返信が来なくなるのでその彼氏は私がその時間に浮気をしているのではないか?と疑ってきたのだ。22時半に寝るなんて有り得ないと。


私は小学生の時からそうだった。

21時には布団に入る。

そこから1時間、2時間、眠れない。

……22時、23時。

寝たと思ったら夜中に目が覚める。

……1時、2時。

そこからまた1時間、2時間、眠れない。

……3時、4時。

寝たと思ったら目覚まし時計が鳴るよりうんと早く目覚める。

……5時、6時。

朝になったと気付いたら2度寝は出来ない。

ゴロゴロするか、起きてしまうか。


早く起きてしまうから早く寝るのだ。

しかしそれを伝えても理解してくれない。

そんな彼からあっさり別れを切り出され

数日後にはバレー部の後輩と付き合っていた。

少し前まで直属の先輩と付き合ってた人とよく付き合えるな、と少しムカついた。

でもその後輩の処女が欲しかっただけのようで

その子ともすぐに別れた。

そっちの方がムカついた。


私は人々が楽しむものであろう【妄想】ということをしない。

何故か眠る前に脳みそがフル回転するのだ。

復習と予習の繰り返し。

あくまで現実的に起こり得そうなことや実際にあった出来事に対して非常に思考を巡らせる。

脳が忙しくて止めたくても止められない。

疲れて寝落ちすればラッキーだ。

1時間は多く眠れるのだから。

なのに。


院長先生は毎日2、3時間しか寝ない。

【自称ショートスリーパー】ではなくガチだ。

なので私の睡眠も体質なんだろうと諦めた。

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