第31話 高校生 9 雲をかき分け

携帯電話で母のおもしろ頭部を撮って遊ぶのが

私のブームだった。

やはりお酒の影響か、予後が当初の見通しより悪かったので母からしたら初めての長期休暇だろう。

「このアングルめちゃくちゃ面白いんだけど!」

2人で撮った写真を見て爆笑する。

母はせっかくだからと、いい値段のウィッグを買って癖毛では出来ない髪型を楽しんでいた。



当の私はというと野球部を辞めた後、すっかり

情熱を無くしていた。

頭痛がすると言って保健室に引きこもった。

そんな時こなきが様子を見に来てくれる。

「おーい、大丈夫かあー?」

……頭痛のフリをする。

「痛くて自転車で帰れないから送ってってー」

「なんだよー、自分で帰れよー」

「いーやーだーむーりー」

何だかんだこなきは自家用車で家まで安全に送り届けてくれる。

翌朝、自転車が無いので父に送ってもらう。

あれだけ変な形のハゲで私に遊ばれているのに

こなきはいつも笑っていた。

放課後に「この数式の所もう1回教えて」と言っても「いーやーだーねー」と職務放棄で仕返しされることもあったが。



母は無事に職場復帰した。

またいつもの日々が戻ると思っていた。

でも、少しずつ、少しずつ、母の変化に父と私は気付くようになる。



うだうだとうだつの上がらない日々を過ごし、

私は女子バレーボール部への入部を決めた。

「そうかー!じゃあH先生に言っとくわ!」と

監督は喜んでいた。


次の日、早速H先生から呼ばれた。

「明日からよろしくな。まだ人数が少ないから引退した3年生も来てるから」

入部届けを渡し「よろしくお願いします」と

自分の選択に足を踏み入れた。



……室内スポーツかぁ。蒸し暑っ。

さほど広くない体育館はバレー部の他に

バスケットボール部、バドミントン部がいて

ひしめき合っていた。

バドミントン部が強かったので割と広めに場所を取っているようだ。

風の影響をモロに受けるので、バレー部側の窓もほとんど閉ざされている。



既に集まっているバレー部へ向かう。

2年生は新キャプテンの1人のみだ。

あとはTちゃんを含む1年生が3人。

引退した3年生がその日は2人来ていた。

ぎこちなく挨拶をする。

ルールも知らない訳ありマネージャーに困惑しているように見受ける。そりゃそうだ。

まずは見学をさせてもらった。

「ナイスキー!ナイッサー!」

沖縄の言葉かと思った。


スコアブックをお借りしてルールを把握する。

沖縄の言葉ではなかった。そりゃそうだ。

3対3のミニゲームを観戦しながら発している

言葉の意味を探る。ほぅほぅ。


ダウンタイムのストレッチは一緒にやった。

体がバキバキいっている。

そして初めて【部室】という場所に入った。

野球部のときは部室とは到底呼べない、

外のイナバ物置みたいな所が部室だった。

マネージャーはそこで着替えるが、男子部員は平気で外で着替えていた。



キャプテンが口火を切る。

「てかさー、例のその男ウザくない?」

一同無言で頷く。

私はTちゃんに話しかけた。

「私はもう本当に何の関係もないから。好きとかそういうのも本当にないから。だからY君がTちゃんと付き合うってなっても本当に問題ないから、気にしないでほしい。私はバレーボールに興味があって入部したから」


TちゃんはまだY君が好きなようだ。

彼女がいるのに手を出そうとしていた男を

好きでいられるのは、ダメンズ好きなのか?

だとしたらY君はピッタリだ。


私は意外にもすんなり女バレに溶け込んだ。

「あれ?野球部じゃなかった?」なんて同級生から聞かれることもあったが、

そんなことも気にならないくらいになった。

女バレの雰囲気は野球部と少し似ている。

監督が【教祖様】のような存在。

体育会系あるあるだと思うが、その中でも特に

宗教性が高いのが野球とバレーだと思う。

女バレの監督、H先生は目付きも顔色も悪く

声は低くて完全なるオラオラ系だ。

部活終わりに部員にジュースを奢ったりと、

飴と鞭を上手く使っているようだ。

野球部の監督と仲がいい理由もわかる。


でも私はH監督と少々、距離をとっていた。

【近すぎたら危ない】本能がそうさせている。


春休みに入る前、H監督から

「今年ここに入学が決まっていてバレー部に入部希望の中学生も練習に参加してもらうから」と

7人の参加を伝えられた。

……そんなこともあるんだなぁ。

そうして迎えた春休み。

私はバレー初心者でルールがまだよく分からないから、教えてねと挨拶をした。

スパイク練習のボール拾いは難しいし忙しい。

私もたまにパスやレシーブ練習に混ざった。

……腕、痛ってぇーーー。

……指先、ひん曲がるぅーーー。

人数が足りない日は普通にコートに入る。

……スパイク怖ぇーーー。

春休みの練習最後の日。

「入部待ってるね~」と後輩予定を見送る。



春休み明け、TちゃんはY君に告白をするらしい。春休み中もメールをしていたようだが

付き合ってはいなかったようだ。

告白の結果は…部室で審議となった。

Y君は私に申し訳ないからだとかなんだとか

ウジウジうねうねモゾモゾしているらしい。

私はついにY君にブチ切れ、ヤンキー漫画の

如く女バレの部室に呼び出した。

隣の空き室で野次馬が4人、聞き耳を立てる算段である。

ちなみに私はブチ切れると非常に言葉遣いが乱暴になるのですが、悪しからず。


ビクビクしながらY君が部室にやって来た。

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