第30話 高校生 7
あの日から夜空が墨色に見える。
「野球部、辞めます」
教員室で監督に伝える。
「何があった?」
Tちゃんのことも含め正直に全てを話した。
「あいつ最低だな。続けなくていいのか?」
「はい。同級生ですし、どちらかが先に引退するわけでもないので。アーロン先輩にも申し訳がつかないです」
「そうかー。よくボールも見えてるし、お前ならあいつの下でもやっていけそうな気がしたのに、勿体ないなぁ。代わりに俺がYぶっ飛ばしてやろうか!」
「お願いします笑」
「気が変わらないなら仕方ないよな」
こうして私は春休み前に退部した。
1年と続けられなかった。
両親に何て言ったのか覚えていない。
桜の木には緑の芽が出始めている。
私の芽は出なかったのか、潰したのか。
人生は常に選択の繰り返しであると実感した。
もうすぐ春休みになろうある日。
野球部の監督から呼ばれ教員室に行く。
「なぁ、提案なんだけどさ」と言われる。
「はい」
「他に入りたい部活があったりするか?」
「いや、全く」
「女子バレーボール部入ってみないか?」
「…Tちゃんいますよね」
Y君はまだTちゃんと付き合っていなかった。
Tちゃんの片思いが続いている状態だ。
「私がバレーボール部に入ったら空気が悪くなると思うんですけど」
「でもお前のマネージャー能力を放って置くのが勿体ないんだよ。女バレの監督と仲がいいんだけどさ、お前の話をしたら女バレに欲しいって言ってるんだ。Tにも相談済みだから、あとはお前がどうするかって感じなんだけど」
……はぁ。大人は勝手に話を進める。
「私、バレーボールの知識ないです」
「無いなら覚えればいい」
「女バレ、部員4人しかいないですよね」
「3年が引退してから人数は足りてないな」
「練習しても試合できないじゃないですか」
「実は新1年生が結構入る予定なんだよ」
……確かに私は帰宅部って柄でもないしなぁ。
「具体的に女バレのマネは何するんですか?」
「もちろんスコア書いたりボール拾いしたり野球部と似たようなもんだけど、女バレの監督が言うには選手たちのメンテナンスもお願いしたいらしくて、懇意にしてる接骨院の院長のところでバイトがてら勉強してほしいらしい」
……ほう。
「考えてみます」
家に帰り、再び考える。
Tちゃんはどんな子なんだろう。
監督が私の入部を視野に入れていると聞いて
部員達はどう思っているんだろう。
バレーボールはどんなスポーツだろう。
接骨院の先生はどんな人だろう。
何を勉強するんだろう。
……面白そうだな。
人生は常に選択の繰り返しである。
でももし私がこの選択をしなければ。
もし別の選択をしていたら。
ごく普通の高校生活を送れていたのか。
否。
そんなことは誰にもわからない。
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