第28話 高校生 5 勢いのままに
「あ、言ってなかったけど部内恋愛禁止だから」
部活前、着替えながら唐突に言われた。
私の頭の中は【?】と【困惑】で溢れた。
例の夏合宿でキャプテン布団に潜り込み事件が
気持ち悪かったのは、当時キャプテンはS先輩と付き合っていたから余計に気持ち悪さの上乗せがされていたのだ。
だから副キャプテンも内々に窘めたのだ。
みんな付き合っていることを知った上で話題にしない、つまり暗黙の了解というやつである。
禁止であるということ自体聞いていないし、
阿呆な私は察することも出来ていなかった。
アーロン先輩が私達のことを噂で聞いて釘を刺してきたのは間違いない。だから帰り道で自分が他校の野球部から可愛いだの何だの言われているという事を遠巻きに話し、でも自校の部員とは付き合わないというルールを守っているマウンティングだったのだと思った。
入部した春から季節は冬の準備に入る所だ。
「部内恋愛、禁止なの知ってた?」Y君に聞く。
「知ってた」
……知ってたんかーい!
「禁止ならもう付き合えないね」
「でも好きなのに別れるとか出来ない」
……少女漫画よ、我に力を授け給え!!
「いや、無理だよ。辞めなきゃいけないじゃん」
……我に力を授けられることは無かった。
「前キャプがS先輩と付き合ってたのは黙認されてて、俺らだけ別れるのはおかしいでしょ」
……ごもっともである。
「別れたことにして付き合おう」
……おぉ、少女漫画みたいな展開だ。
「それでバレたらY君が部活を辞めてね」
「わかった」
こうして私達は私達が付き合っていることを知っている同級生にだけ顛末を伝えた。
私は1度だけY君の家の前まで行ったことがある。Y君の自転車がパンクしたので乗り換えるために立ち寄ったのだ。
鍵を取りに行くのを待っている間、男の人と腕を組みながら楽しそうに話す女性と目が合い、
その女性は少し不思議な顔をしながらY君が入ったアパートと同じ部屋に入っていった。
……Y君のお母さん?だよな。
Y君の家庭はシングルマザーで母親の帰りが遅いと聞いていた。ということは連れの男性は
彼氏ということか?
少し不機嫌に見えるY君が出てきた。
面倒くさいので何も言わないでおいた。
私はY君を何度か自分の家に呼んだ。
親に紹介できねー奴とは付き合わねー!という謎の義務感である。
一緒に夕飯を食べたりしてからY君を見送る。
部活が休みで平日のある日。
私の部屋にはテレビがないので基本的にはお喋りをして過ごすか、ジャンプコミックスを読むくらいしか出来ない。
私はそんな日がダラダラと続くものだと思っていたが、やはりそうはいかなかった。そう、
相手は高校生である。(私もだが)
私は中学の同級生Mちゃんの話を思い出した。
……眠ってしまえばどうってことない事だ!
さすがに眠ることは出来なかったが、神経締めした活魚のように素早くしっかり処理された気がした。それと同時に、何かの柵から解放された気がする。
その数日後、母から呼び出された。
「あんた、これは生ゴミの方に捨てないと!」
親から初めてされた性教育は分別だった。
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