第26話 高校生 3
今日の練習も、さも当たり前のようにアーロン先輩が監督のボール渡しをしていた。
私はA先輩とボールを拭きながらアーロン先輩から日替りでボール渡しをするとかの提案は無かったのか聞いてみた。
「そんなのしてくるわけないじゃん」
……ですよね。
A先輩はいつまで経っても1年の私と同じ雑用をしている。
2人で帰り支度をしている時にA先輩から意外な言葉が発せられた。
「私、出会い系にハマっててさぁ。」
……ですよね。とはならない。
当時、mixiというSNSが流行っており確かにそれを元に人々が出会っているというのは存じ上げていた。私は見たことが無かったのでA先輩が自分の自撮り画像や相手の人などを見せてくれた。どちらかと言えば地味で大人しい見た目なので派手に遊んでいるイメージは無かった。
危機管理能力的に考えると心配だったが、A先輩はSNSの中ではイキイキとしていたので人が誰とどういう形で出会おうとその人の自由だと思っている。
A先輩は私をmixiに誘い、操作方法やらなんやらを教えてくれた。
【元ヤンです!】というのが男性のアピール要素に含まれるのか、と解せぬ気持ちになった。
私は人間観察の1つとしてmixiを利用した。
お兄系とかガテン系とかギャル系とか色んな種類があって、図鑑を見てるようだった。
そういえば他クラスのギャルがルーズソックスを幾らで売ったとか話しているのを聞いたことがあるがそういうことなんだな。
3年生が引退しても試合ができる部員数で本当に良かった。これで土日はどこかの高校と練習試合が組めるのだから。
練習試合ではスコアを書いたり得点ボードをめくったり、ドリンクやタオルを渡したりするのがマネージャーの仕事だ。
夏は保冷剤も家で作って持っていくので手間だし重いし結構大変。
私は中学のソフトボール部でスコアを書いていたし、野球部に入る気満々だったので家でプロ野球を観るときも書いていた。
だからなのか、最初ベンチスコアラーは当然のようにアーロン先輩がやっていたのだが監督は私が記録した練習スコアを見るようになった。
高校生が投げる球種はせいぜい3種類がいい所なのだが、アーロン先輩は球種の見極めが出来るフリをしていた。その綻びがついに監督にバレてしまったのだ。しかし監督も馬鹿じゃない。(いや、後に記すが馬鹿な監督だった)
角が立たぬよう、さりげなくA先輩と私をベンチスコアラーにローテしてくれた。
でもアーロン先輩は自分だけがそこに居たい性格なので、よりいっそう顔が鮫の様になり、
ついにA先輩は野球部を辞めた。
アーロン先輩さえ居なければ続けたかったと言っていた。
私はこれからアーロンと2人でやっていくのか。
あ、アーロン「先輩」と2人でやっていくのか。
野球部内だけでなく、学年内でアーロン先輩の性格の悪さは噂になっているほどだ。
私も辞めないか2年生の部員が心配してくれる。
でもそんな場面を見られたらジ・エンドだ。
なのでその旨を部員たちには話した。
だから部員同士が安いけどそんなに美味くない焼肉食べ放題に行く時はこっそり私も呼んでくれて困り事など話を聞いてくれていた。
タイミング良く?アーロン先輩からメールが届いたので確認すると、保冷剤持って帰った?
という内容だった。
その日は翌日に練習試合を控えていて、まだ残暑が残る季節柄、学校のグラウンドにあるロッカーから保冷剤とクーラーボックスを隔週の当番で持ち帰り凍らせて持って行くというのが
アーロン先輩との取り決めだった。
そしてメールを送ってきた日はアーロン先輩が当番の日だ。
恐らく、自分が忘れたことは自覚しているのだが持って帰ったかの確認を怠った事と、忘れてますよと声掛けをしなかった私に非があると言いたいのだ。
どう返信しようか迷っていると、先輩部員が
今週は先輩の番なので私は持って帰っていません。とハッキリ言ってやれ!と送信したのだ。
しかしアーロン先輩から返事は無かった。
明日の試合当日、監督部員みんなの前で私に罪を擦り付けようとしているのは容易にわかる。
焼肉を食べた私たちは自転車を猛烈に漕いで
もう閉まった学校へ入る秘密の穴抜けフェンスからグラウンドに向かい保冷剤とクーラーボックスを持ち出した。
試合当日、保冷剤とクーラーボックスを持っている私にキョトンとさせている姿を見て
部員たちはアイコンタクトをしてきた。
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