第25話 高校生 2
【新マネ】
それが先輩部員からの呼ばれ方だった。
【だんごちゃん】
これは同級生部員が呼んでいたらしい。
私は髪を後ろに縦に2つ並べたお団子結びをしていたので、部活外ではだんごちゃんと呼ばれていることをあるとき知った。
新マネの仕事はもちろん雑用だ。
まだ春先で寒い中、グラウンドに溜まった水溜まりをスポンジで吸ったり。
草ボーボーの外野の草刈りをしたり。
そういえば草刈りをしているときに手の甲にヒルが吸い付いていると思い咄嗟に持っていた鎌で手の甲をやっつけた傷は今も残っている。
(当然ヒルではなく、ただの枯れ草だった)
硬球に付いた土を拭いたり。
ボロボロに割れたレガース(キャッチャーが脚に着ける防具)に入り込んだ土を割り箸でほじくったり。
ノックを打つ監督へボールを渡すのは年功序列と決まっているらしい。3年生のS先輩がやる。
2年生マネージャーの2人は入部初日からこの私でもわかるほど水と油の存在だった。
1人は兎に角、と!に!か!く!
【性格が悪い】の代表だと思った。
本当に色んな意味で申し訳ないが、顔がアーロンに似てるのでここではアーロン先輩とあえて呼んでいきたいと思う。
人生で初めて出会うほど性格がよろしくない。
自分がナミになった気分だ。
もう1人は兎に角、と!に!か!く!
【お人好し】の代表だと思った。
A先輩は帰り道が同じ方向なので仲が良くなるまで時間はかからなかった。
この夏で引退するS先輩は5人兄弟の長女ということで、小泉進次郎さんより水と油の人を混ぜてドレッシングにするのが上手いと思う。
アーロン先輩はいつもA先輩を馬鹿にした物言いだった。ヒエラルキーのトップに自分がいると思っているらしい。
早くS先輩が引退して自分が1番になりたいオーラがプンプンしてる。
それをS先輩もわかっている。その上で上手く対応しているなと感心しかないのだが、アーロン先輩の将来の夢は美容師でS先輩がそれを私に「あの子の性格で美容師なんて、下っ端で下積みできるようなもんじゃないよ」と言うから感心の上を行く感覚になったものだ。
私はS先輩の立ち回りを見て自分も人との関わりに気をつけるようになったと思う。
肌寒いと思っていた春も、一生懸命に部活をこなしていたらあっという間に夏になった。
高校生活初めての夏休みは全日部活の合宿。
学校横に合宿所が併設されており、
マネージャーは日替りで食事当番があった。
アーロン先輩の当番の日は部員のみんなが何とも言えない顔になる。カレーの野菜が生煮えなのをお構い無しに食べろ食べろと後輩たちに
生煮えハラスメントをしていた。
合宿中は宿題の時間と昼寝の時間がある。
読書感想文を後回しにして他の宿題を手っ取り早く終わらせる。
昼寝は各々の場所で雑魚寝をしている。
私も端っこに敷かれた布団に横になった。
もちろん夜はマネージャー用の部屋で寝るのだが昼寝は時間が短いので適当にゴロゴロする。
ちょうどウトウト眠りについた頃、背中側に誰かがいるのに気付いた。
間違いなく何かがあたっている。
慌てて布団から出ると、キャプテンがいた。
そしてキャプテンも慌てている。
いや、お前が慌てるのはおかしいぞ。
私の様子に気付いた副キャプテンが声をかけてくれ、キャプテンを窘めた。
こんなことエロ漫画の世界でしか起きないと思っていたが世の中は意外とエロ漫画を元にまわっているのかもしれない。
私に7枚目の写真が焼き付いた。
非常に気持ち悪かったがどうせこの夏で居なくなる存在だと思ったら水に流せた。
この手の事に関して寛容な自分が嫌になる。
私が読書感想文の宿題を忘れていたのはキャプテンのせいだと思う。
夏休み明けの数日後、国語の先生が「読書感想文出してないぞ。これ出さないと単位落とすよ。」と言ってきて慌てて図書室に走った。
私は【ちいちゃんのかげおくり】という本を選んだ。太平洋戦争を題材にした絵本なのだが、
如何せん私は8月15日の終戦記念日生まれ。
ニュースで流れる戦争の悲惨さでハッピーな
バースデーどころじゃない。
数日遅れで提出した読書感想文は、最優秀賞の次の優秀賞を取り賞状をもらったのだから
単位は落ちないだろう。
最優秀賞は従姉妹が唯一の親友とする私と同じクラスのタマちゃんだった。
1クラスに2人も賞状物が出たので通称【こなきじじい】の担任は鼻高々にしていた。
因みにこなきと私は何故か仲が良かった。
なんでそんなハゲ方してるの?とか、なんで
後頭部凹んでるの?とか平気で言うのに笑って頭を引っぱたいてくる。
年々暑くなる日本の夏。
3年生の引退試合は1試合目であっさり負けた。
ありがとうございまぁす!と心の中でガッツポーズをしつつ残念な顔ができるほど私は少し器用になっていた。
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