第21話 中学生 6
恋愛漫画を読んでみる。
人を好きになるとどうなるのか。
漫画は文字で人の見えない部分を描写する。
残念ながら私はまだ人を好きになったことがないようだ。にもかかわらず、
それこそ漫画の世界のようにひっきりなしに告白をされていた。嫌で嫌で仕方なかった。
どうして嫌なのか自分でわかっている。
異性が私に興味を持つ時は【体目的】でしかないと頭の中に植え付けられているからだ。
好意的に見てくるその目は、漫画で描かれるようなキラキラでもドキドキでもなく、ジト~っとまとわりつくような感覚だった。
Yちゃんと遊んだ帰り道、自転車で大きな公園横を走っていると目の前に自転車が止まった。
「すいません、近くにトイレはありますか?」
周りには誰もいない。
「すぐそこにあります」
指をトイレ方向に指した時、ガシャ!という音と共に男が私の口を塞いだ。
「騒いだら殺す」
そう言って男は私が指さした公園のトイレに引きずり込んで行った。
瞬間、私の頭の中に流れてきたのは【可哀想】という感覚だった。
自分のことではない。その【男の子】の事だ。
たぶん私と同じくらいの歳、家庭内で抑圧されている鬱憤を晴らしているのだ。特に母親からだろう。反抗期、ではなく反抗的、に育ってしまっている映像が【みえた】。
殺されない、という謎の確信はあった。
でも逃げる他に術はない。
何とか振り払い再び自転車に乗り逃げた。
鍵を掛けられる前に出られて良かった。
近くに自分の中学校がある、一旦その中に逃げ込もうと必死に自転車を漕ぐ。
振り返ると自転車で追ってくるのが見える。
ほんの数秒の差で先に中学校の中に滑り込み
その男の子は悔しそうな顔をして逃げた。
まだ明かりのついている教員室へ向かった。
携帯電話を持っていたが、まず安心できる場所へ入りたかった。
女子バレーボール部の顧問と同級生を含む数人が話しているところだった。
「あれ?どうした?」
そう聞かれ、事の次第を話し、家に連絡をしてほしいと頼んだ。
数分で母が自転車ですっ飛んできた。
門限を過ぎていたので警察に連絡しようと電話を手に取ろうとした瞬間に、学校から連絡がきたようだ。
母はしきりに謝っていた。
帰り道、私は怒られた。
今思えば心配の裏返しだったのだろうが
私が欲しい言葉は出てこなかった。
次の朝、私が学校に着いた時には昨日のことが
学年中に広まっていた。
…教員室に居たバレー部の人たちか。
よくもあんなことがあったのに自分も学校に行くなぁと思ったが、家で心のケア的なものをされたわけでもないし、休んでゆっくりするよう言われたわけでもない。
休んだところで何にもなりやしないのさ。
まぁこの短い人生で2度もトイレに連れ込まれることは想定していなかったが。
心配してくる生徒などほとんどいない。
聞こえてくるのは尾ひれはひれついたコソコソ話だけだ。
歳は同じ頃、狐のようなつり目で、痩せ型。
身長は自分より少し高いくらい。
人生に失望しているような雰囲気。
私に6枚目の写真が焼き付けられた。
なんだか自分の中の一部分のたがが外れた感覚があった。
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