第20話 中学生 5 ハワイへの熱意

「付き合ってみればいいじゃん」


え、え、え、えーーーっ!!!!!


本当に目が飛び出るかと思った。

なんとMちゃんは引っ越してくる前の小学校で

付き合った人が1人いるらしい。

さらに驚くべきは、寝てていいよ、と彼に言われ本当に眠ってしまいその間どうやらなにやらされたことがあるらしい。

しょ、しょ、小学生の話、だよね?


話さなかった理由は、当時のその男子が今同じ中学にいて、そんなことをしておきながら今となってはMちゃんに【ボブント】というあだ名をつけてからかっていたのだ。

授業中、ボブント!という音のオナラをMちゃんがしたからだと言うのだが、大方自分がこいたのを人のせいにしたのだろう。

その話を聞いて私はその姑息な男子が一瞬で

大嫌いになった。


いや、そんな話はどうでもいい。

いや、どうでもよくない。

いや、もはや頭がクルクルパー状態だ。


とりあえずメールでもしてみれば?とMちゃんは提案してきた。

メ、メールか…。

「何事もやってみるべし!」

…あなたはもうちょい危機管理もとうか。


どうやら私は告白された時にろくな返答もせず酸素不足の鯉のように逃げたようだ。

「この前の…」

そう改めて言われて鯉に化けそうになる。

「いきなり付き合うのはごめんなさい、でもメアドの交換なら…」と、勇気を出して言ってみた。

その人は付き合えたかの如く喜んでいた。


初めて届いたメールには、小学校に入学してすぐ私を見て好きになったこと。一目惚れというものは私には理解が出来ない…。

クラス替えの度に同じクラスになるようお願いをしていたこと。実際に2年生から卒業まで同じクラスだったから願いは届くものなのか?

Kくんが私にケツ出し告白をした時とても焦ったこと。いや、ケツ出しに焦る必要はない。

私が男子と話すようになってヤキモキしたこと。よく観察しとるやないかい!

中学に上がって私の事が好きだという男子が他にいてとられたくないと思った。というような熱烈な内容だった。


【私の事が好きな他の男子】が誰なのかはどうでもいいのだが、やはり私は異性に好意をもたれることが気持ち悪いらしい。


Mちゃんにこんな話をされたと相談したら

小学校ではみな周知の事実だったようだ。

6年生から転校してきたMちゃんですら分かっていたというからこれまた目が飛び出る。

私は小学校の間、その男子とほとんど話をしたことがないのだぞ?


メールは聞かれたことに私が答える形式で進んでいたのだが、ある日のやり取りで

「どこか行きたい所ある?」ときた。

私は「ハワイ」と答えた。

現実味のある所だと2人で出かけることになりそうだったから咄嗟の回答だ。

「ハワイは新婚旅行で行くんだよ!」


…?……?………??…………!?


彼にとってハワイは現実であった。

私たちは、付き合って…ない。

婚約は…もちろんしてない。

自分は一体、何に頑張ろうとしているのか。

彼の大きすぎる愛情を私は微塵も受け取ることは出来なかった。一途すぎて怖かった。

本当に付き合ったら私はこの人に縛られて生きていくことになる。そう感じた。


「ごめん、ハワイには行けない」

彼のショックは想像に容易かった。

何故なら一途に好きであり続けた人と結婚することまで考えていたのだから。


その後も、彼が未練の眼差しで見てくることは流石の私も気付いていた。

でもそこに同情をもたせてはいけない。

男性が苦手なことも告白する必要はない。

苦手になった理由も語る必要はない。

だって私は性根が冷たい鉄なのだから。

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