第17話 中学生 2 漬物石を置かれる
「成績は必ずクラスの真ん中より上でいなさい」
中学校に入学した時に母に言われた。
指図されてやる勉強ほどヤル気が失せるものはない。理由もあれこれ言っていたが自分の価値観で将来の物事を語られてもね。
テスト期間中は部活がない。
Mちゃんの家に行くわけにもいかないので仕方なく家に向かって歩いている時。
遠くからこちらをジーッと見てくる自転車に乗ったおじさんを見つけた。
信号は青のようだが渡る様子がない。
やばい奴に家がバレる、という直感が働く。
真っ直ぐ行けば家に着くところを一旦左折してぐるっと1周している間にいなくなるだろうと思ったが、右向きでこちらを見ていたおじさんは左向きでこちらを見ていた。
わざわざUターンしてきたということだ。
待ち伏せされてる。
再び元の道に戻ると、右向きで見ている。
私はひとり遊びで使っていた裏道に隠れた。
完全に他人の家だが平成の時代は関係ない。
ここからは時間との勝負だ。
心臓がバクバクしている。
自宅を知られるのは今後の生活に支障が出る。
おじさんがこちらに向かってこないうちに
家の中に入り、鍵を閉める…。
カーテンの隙間から様子を伺う。
大丈夫そうだ。
シルバーのママチャリ
ハンドルに小さな袋が下がっていた
白のシャツにスラックス、黒っぽい靴
後退し始めているデコ
私に5枚目の写真が焼き付かれた。
私は家族に相談できなかった。
…6枚目が焼き付かれるまでは。
何度目かのテスト。
母の言う通りの成績をキープしていた。
数学というより算数が苦手なのでほかの教科で点数を稼がないといけない。
成績表を見せるのが嫌なのは私だけじゃないと思っていたが、喜んで見せる奴がいた。
兄だ。
中学に上がって兄は自ら塾に行きたいと申し出たのである。後に聞けば好きな子が通っていたからという不純な動機であったが、勉強が好きな方だったので学年で3位内の成績だった。
伝統ある進学校に受験を決めたらしい。
「あんたとお兄ちゃんはシーソーみたいだね」
どういう意味かすぐにわからなかった。
わかった時、胸が冷たくなるのを感じた。
数学の点数を上げないとダメだ。
正直、家で勉強はろくにしたことない。
授業でノートに必死になるより先生の目を見て話を聞いて要点だけをノートに書く。
家ではそれの復習だけをする。でも数学だけは
数式を覚えてもそもそも計算が遅いので今回のテストも最後の回答を書くのがやっとだった。
そういえば数日前から咳と微熱がある様な。
頭がボーッとしてテストに集中できなかった。
咳がうるさくて他の生徒に迷惑をかけたかもしれない。
既に定年退職していて家にいる祖母に体調を相談し付き添ってもらって病院で診察を受けた。
マイコプラズマ肺炎だった。
今では耳にすることも多くなったが、当時はまだ馴染みが薄く周りに誰も感染者がおらずどこでもらってきたのかサッパリわからない。
テスト期間初日にして私は即日入院となったのである。
仕事終わりに病室へ来た母が
「やっぱり赤ちゃんの時の予防接種をちゃんと打たなかったから免疫力の弱い体にしちゃったのかなぁ…」
いや、知らんがな。
確かに私は幼き頃からよく体調を崩した。
小学校低学年のときの集団予防接種で
私だけが異常反応が出てしまい、これまた即刻病院に向かうこととなった。病院の先生は私の蜂に刺されたような腕を見てすぐに血液検査を行った。結果は「白血球数の異常」とのこと。
よく分からないが白血球数が異常に少い体質の可能性があり、白血病や血液関係の病気に気をつけていた方がいいと言っていた。
肺炎で10日も入院することになり、お見舞いにお菓子を買ってきてくれる祖母のおかげで入院前より太って退院した。
受けられなかったテストは再テストすることは出来ず、普段の授業態度や提出物により成績がつけられたため、数学のみならずほとんどの教科で成績を落とすことになった。
自分なりに頑張って挑んだのに…
アンタが私の健康管理を怠ったくせに…
それでいて兄と比べられる理不尽さ…
そのテストを境に私は勉強への意欲がみるみる低下していった。
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