第16話 中学生 1
教壇から見て私の席は1番右奥の角。
同じ小学校出身の子が辛うじて見えるくらい。
四面楚歌だ。
それに比べてどうやら私の前とその前の女子は
同じ小学校出身のようだ。
絵にかいた様にキャッキャしている。
「ねぇねぇ!名前、なんていうの?」
突然振り返り話しかけられた。
どうやら何部に入るかの話の延長線で話しかけられたみたいだ。
そして名乗って直ぐ、私のあだ名が確定した。
きっとそれくらい勢いのある子の方が私には
丁度いい塩梅なのかもしれない。
帰宅し、何部に入ろうか考えていた。
入部必須だからだ。
Mちゃんはソフトテニス部にするらしい。
私も母が通っていたテニスクラブに連れられていたのでテニス部もありだ。
でも父の草野球について行ってオジサンたちとしたキャッチボールが楽しかったからソフトボール部もいいな。
バスケットボールは小学校でやってたからもういいかな。
武道だと剣道部か。
キックボクシング部とかあればいいのに。
水泳部もあるけど母がうるさそうだし、冬はプールに入れないからやめだ。
テニス部はイケイケの人が多そうだな…
あんなみじけーユニフォーム着たくないし、
野球に近いからソフトボール部にしよう。
ソフトボール部に決めたことを父に話すと
大喜びして抱きしめて髭を擦り付けてきた。
そう、父方の祖先は東京都中央区日本橋という
生粋の江戸っ子であり、日本に野球が伝わってから代々、読売ジャイアンツのファンだ。
母のルールにより自室にテレビを置くことを禁止されていたため、テレビはリビングもしくは祖母の部屋で観るしかない。しかしリビングのテレビに映し出されるのは専ら野球であり
野球じゃない時はオフシーズンの冬だけ。
さらに言えば父の職業は野球関係。
テレビはもちろん一緒に観戦も行く。
だから娘と自分の趣味に近いソフトボールを選んでくれたことが相当に嬉しかったようだ。
それを見た母は呆れたような悔しそうな、表現しがたい顔をしていた。
まぁ、子供が熱を出しても草野球に行くような父親だったからな。わからなくもない。
父と一緒に新しいグローブを買いに行った。
ソフトボール部に入部をすると、入学初日に
あだ名をつけてきた子も同じだった。
部活では自然とその子とキャッチボールなど組むようになった。
でもその子はあくまで【部活用】。
私にとって友達ではない。
私とMちゃんはそれぞれ部活が終わると一緒に
Mちゃんの家に帰り、門限までに本当の家に帰る。まるで二重家庭みたいだ。
Mちゃんとはクラスが別だったので私にも普段の教室で一緒に過ごす【教室用】ができた。
私を入れて4人。内1人は同じ小学校の子だ。
他の2人はとてもませていると思った。
見た目の話やアイドルの話、私がまるで興味のないことを当たり前のように話す。
虫と石が初めての友達だった人間としては
かなりハードルが高い会話だ。
ムダ毛の処理など考えた事もなかった。
しかし思い返してみれば母とお風呂に入っていた頃、「あんたは将来くまさんになるんだよ」って笑いながら言われていた。
どうやら剛毛ではないが産毛が多かったらしく
それをからかっていたようだ。
なんだか腹が立ってきた。
私は【教室用】を真似してまずはムダ毛の処理から始めたのである。
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