第14話 小学生 7

私はMちゃんと遊ぶことが多くなった。


Mちゃんには弟が2人いて末っ子はまだ産まれて

数ヶ月だった。

「食が細くてあまりミルク飲まないのよー」と

Mちゃんのお母さんが言う。

ゲップをさせた大事な赤ちゃんを「抱っこしてみる?」と優しい声で聞いてくる。

今思えば育児などで忙しかっただろうに、

私をもう1人の娘のように可愛がってくれた。

一緒にテレビを観て夕飯をご馳走になって、

その頃にお父さんが帰ってきて、当たり前のようにお喋りをして。


家族ってこんなに柔らかい存在なんだ。

自分の家よりも居心地が良かった。


私には父方のいとこが11人いる。

逆に母方のいとこは誰もいない。

同い歳のいとこを除き、下10人は歳下だ。

唯一の歳上は私の兄になる。

そうなると必然的にどういうなるかというと

親戚が集まった時に酒に酔った親共の代わりに歳下のいとこ達の面倒を見る羽目になる。


だから赤ちゃんにも歳下にも慣れていたので

Mちゃんの弟たちは私にとても懐いてくれた。

2つ下の弟は話す事が好きで甘えん坊、

末っ子の成長もMちゃんの家族と同じように

見守っていた。


私はお小遣いでMちゃんの家に持っていくお菓子を買いにスーパーに行った。

うちから向かうとスーパーの裏入口が近い。

自転車置き場に沿って歩いていると向かいから

自転車に乗った男が来たので端に寄ろうとした時、すれ違いざまに胸を揉まれた。

めちゃくちゃ油断していた。

男は速度を上げて走り去って行った。


中年、黒髪、グレーのジャンパーに黒のズボン。

シルバーのママチャリ。顔は見えなかった。

私に、4枚目の写真が焼き付けられた。


いつもなら親にも言わない。

でもMちゃんにはこっそり打ち明けた。

Mちゃんも使う道だからだ。

あと、小学6年生の割に私もMちゃんも

平均よりかなり胸が大きかったので同じように狙われるかもしれないと思った。


その日から私は胸を隠すような姿勢になり

今でも酷い猫背、むしろ腰から猫背で肩は思いっきり内側に巻いている。

そして自転車に乗っていようとお構い無しに

下を向いて歩くようになった。

男と目が合うのが怖いのだ。

目が会わなくてもすれ違うだけで緊張する。


そうやって自宅に帰ってきた私はいつも通り

無愛想マンに変身する。「こっちが私の家か…」

仕事から帰ってきて20分ほどで出来上がった料理を出して母は「20分で出来た!すごくない!」

と自慢してくる。

もちろん美味しい。美味しいのだけれど…

せかせかと作られた料理よりも、優しく楽しくお喋りしながらルーから作られたハヤシライスの方が美味しいと思ってしまった。

市販よりも味は薄いのに、美味しい。

私はいつしか薄味の料理が好みになっていた。

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