第17話 魔犬の日常
郊外に佇むエーデルレイク家は花の見頃を少し過ぎ、初夏の装いだった。だんだんと緑は濃くなり、動物は子育ての最盛期を迎えている。落ち着いた雰囲気がありながらも、生命溢れる素敵な場所だった。
暮れなずむ庭先には魔犬が一匹。
「お散歩しましょう、フィリップ様」
「お散歩しましょぉ」
「ん、お散歩」
通常業務を終えたキャスリン達が魔犬を迎えに来た。季節は散歩日和。気持ち良いこと間違い無しの誘いに魔犬は喜んだ。
『さんぽさんぽさんぽさんぽっ!』
まるで本物の犬のように、魔犬はぐるぐるとその場を回り、飛び跳ねて喜びを表した。
『さんぽっ! はよっ!』
「待ってくださいね」
そう言ってキャスリンはリードを用意しに行った。キャスリン達は魔犬のお世話を任されており、散歩も仕事のうちだ。本来ならフィリップが任された仕事だが、彼は忙しいのでそれは出来ない。魔犬が逃げないためにも三人体制でお散歩に行くのだ。
『ワオォーーン!』
リードを付けて通用門から外へ出た途端、弾けるように魔犬が飛び出した。ぴんと伸びたリードがぐいぐいと引っ張られる。
「お待ちください。フィリップ様」
『楽しい楽しい楽しい! さんぽっ!』
魔犬は散歩の魅力の虜となっていた。いつもの道をずんずん進むと、いつものマーキングエリアにつく。ふがふがと匂いを嗅いで、今日の縄張りチェックを行うと、素早く尿でマーキングする。延々とその繰り返しだが、魔犬は夢中になって歩いた。
『ふがふがっ! んんっ!?』
香り高い雑草を前にして、ぴたりと足を止める。魔犬は念入りに匂いを確認して吟味した。道端に生える一束の雑草。青々として爽やかな香りが鼻をくすぐった。
『ふんがっ!!』
魔犬は草を横から齧りついた。なかなか繊維が噛み切れずに何度も歯んで、最後には引きちぎった。
『んちゃ、ぬちゃ、くちゃ』
「フィリップ様は、草がお好きなんですか?」
『ハッ!!』
(俺様は雑草を食べたのか!? はずいっ……、犬みたいだ)
『べ、別に好きではない! たまたま口に入ってきただけだ!』
「たまたまですねぇ」
「ん、偶然」
優しいサキュバスの卵達に見守られて、魔犬は今日も道をゆく。帰る頃には魔犬の息は、はっはっと切れて良い汗をかいていた。
「フィリップ様、お風呂で汗をながしましょう」
「流しまぁす」
「ん、かけ湯」
魔犬はこの時間が大好きだった。なんと言っても三人の若い女達と仲良く風呂に入るのだ。犬になって良かったと思う瞬間であった。
『おう! お前らついてこい!』
「はいっ」
「はぁい」
「ん」
元々、服を着ていない魔犬が最初に風呂場へ入る。空の桶に入ってしばらく待っていると、サキュバスの卵達が入ってきた。キャスリンのメガトンロケットランチャーおっぱい、ティオナのぷにぷに手毬おっぱい、マリッサの貝殻で隠蔽可能おっぱいが揃うと、魔犬は『うむっ』と頷いた。
『いつ見ても壮観だぜっ! 俺様に奉仕しろっ』
「かしこまりました」
「了解でぇす」
「ん」
魔犬はサキュバスの卵達を育てるために、自ら奉仕を受ける。アドバイスをするためだ。
まずは三人揃って魔犬をお湯で濡らす。おっぱいとおっぱいの間から彼女達の手が伸びてきて、思い思いにお湯をかけていく。右を向けば、ロケットの先端がぶるんぶるんと弾み、左を向けばピンクの貝殻がぷるりと震えた。正面では可愛い手毬がぷるるんと揺れている。十分に濡れた魔犬は、泡立てるように三人に洗われた。
『はぁ〜、たまんねぇ〜』
耳の後ろを撫でられると、蕩けるほど気持ち良い。痒いところを優しくマッサージされ、身も心も溶けていく。
『あぁ〜、そこ。もちっと強く……。背中もぉ〜、あっそこそこ! はぁ〜最高っ』
お腹や背中を掻いてもらうと、自然と魔犬の足が何かを押すように空を切る。自分で掻いているような錯覚に陥り、魔犬と彼女達との境界が曖昧になっていく――
『ハッ!!』
(俺様はいったい何を!? サキュバスの卵達に助言しなければならないのに! 意識が朦朧として……)
「痒いところはないですか?」
「こことかぁ?」
「ん、ここ」
『ふああぁぁぁぁ〜〜〜、まいっかぁ〜』
魔犬はいつもの様に奉仕の快楽に溺れていった。汚れた体を綺麗にしてもらい、上機嫌で風呂場を後にする。脱衣所でふわふわのバスタオルに包まれて、しっかりと水分を拭き取られた。脱衣所にて、彼女達が着衣するのを待つ。キャスリンの慎ましい小振りなお尻、ティオナのツンツンしてデレないお尻、マリッサの安産型肉厚お尻がパンティに包まれていく。
『いつ見ても壮観だぜっ! 俺様に奉仕しろっ』
「かしこまりました」
キャスリン、ティオナ、マリッサは着衣を終えるとブラシと爪ヤスリを取り出した。クッションに寝そべった魔犬を順にブラッシングして、爪を整える。不要な毛が絡め取られる感覚は爽快で、すっきりとした心地になる。
「ベッドに付着しないように念入りにブラッシングしますね」
「たくさん抜け毛が取れますぅ」
「ん、根こそぎ」
『ふああぁぁぁぁ〜〜、何か大事なこと忘れてる気がする……。まいっかぁ〜』
またもや魔犬の足が何かをかくように空を切る。三人のサキュバスの卵達と一体となって至福の時間が紡がれていった。
「素敵です、フィリップ様」
「可愛いぃ、フィリップ様ぁ」
「ん、綺麗」
お手入れの済んだ魔犬はツヤツヤしていた。一つ伸びをしてから魔犬は部屋へと戻る。部屋の片隅に置いてある皿の前でピタッと止まり、姿勢を正す。
『今日の飯はなんだ?』
「ジャーキーです」
『ジャーキーッ!! くれくれくれ! はよっ!』
毎日ジャーキーなのに、毎日大興奮する魔犬。キャスリンは微笑みながらこたえた。
「まずはドライフードと果物からですよ」
「全部食べましょぉ」
「ん、健康管理」
『あーん』
魔犬が口を開けて待つとティオナがドライフードを、マリッサが果物を交互に与えた。
『悪くないな』
「ありがとうございます」
全て食べ終えるとジャーキーの出番だった。
『ジャーキーッ! はよっ』
「どうぞ、フィリップ様」
『うまうまうまぁっ!』
魔犬がジャーキーに夢中になっている間に、サキュバスの卵達は夕食をとりに部屋を出る。魔犬がジャーキーを食べ終え、その長い余韻に浸っている間に三人の夕食がちょうど終わるのだ。サキュバスの卵達が帰ってくると、魔犬は彼女達に今日一日の報告をさせた。
『で? 今日はどうだった?』
「衣替えの準備と備品確認をしました」
「お洗濯を頑張りましたぁ!」
「ん、掃除」
『お前らフィリップのクソ野郎を落す目標はどうした!? 仕事中だろうが乳でも晒せやっ!』
するとキャスリン、ティオナ、マリッサは驚いた。魔犬が初めてサキュバスの卵達を育てるための助言をしたのだ。
「そんなことしたらメイドを首になります」
「私達は働かないといけないのぉ」
「ん、解雇」
「そうしたらフィリップ様のお世話ができません」
「そんなの寂しいわぁ」
「ん、奉仕」
「私達、フィリップ様……いいえ、魔王様と一緒に居たいのです!」
「魔王様が一番でぇす!」
「ん、我が君」
『お前ら……』
魔犬は少し息苦しくなった。何かが込み上げてきて血が熱くなるようなのに、全然不快じゃない。怒りとは異なる初めての感覚に戸惑ってしまった。
『そ、そうか……。さすが俺様だなっ!』
魔犬はなぜか収まらない動悸を持て余していた。サキュバスの卵達を見るだけで、心が浮き上がるような心地になる。温かいような、痒いような、不思議な感覚だった。
「フィリップ様」
『な、なんだ?』
「今日のフィリップ様はどうお過ごしでしたか?」
『俺様か?』
魔犬は朝の散歩を終えてから庭に出た。たまに野良猫が糞をしにくるので、定刻になると見張る場所がいくつかある。その偵察を一通り終えたら、必ず庭師がやってくる物置小屋へ出かけた。そこで庭師と遊んでやる。疲れたら木陰で昼寝して、起きたらまた偵察に出かけた。そうしたら人間のフィリップが嫌味を言いに来た。様子見だけに留めればいいのに、いちいち癪に障るヤツだった。最後に敷地を思いっきり走って、いつもの庭の木陰で休憩していれば、キャスリン達がお迎えにやってくる。
そうして、魔犬の一日は巡るのだ。
「今日は私と寝ましょう。フィリップ様」
「私とよぉ、ね? フィリップ様」
「ん、私」
『今日はキャスリンの日だろ?』
ティオナとマリッサは不満そうに自分のベッドへ入って行った。魔犬はキャスリンに抱きあげられ、受け止めきれないおっぱいに埋もれる。優しくベッドに降ろされて、キャスリンが魔犬を撫でながらキスを落す。キャスリンが体を横たえると、魔犬はむくりと起き上がって彼女を見下ろした。
『フッフッフッ、たっぷり可愛がってやる……』
流れる髪がシーツに拡がり、ふわふわと埋もれるようにキャスリンが寝ている。薄い寝間着から薄っすら見える乳房。その形が重力により左右に別れ、彼女が下着を着けていないことが見てとれた。彼女の見返す瞳はとろんと溶けて、唇から長い吐息が漏れる。魔犬は吸い込まれるように、キャスリンの胸元へ飛び込んだ。
『ふああぁぁぁぁ〜〜』
「おやすみなさいませ」
体温が心地良い。魔犬はむにゃむにゃと呟いてから夢の中へ散歩に出かける。こうして魔王は無力化され、国の平和が守られた。サキュバスの卵達は忠信に目覚め、魔犬も尽くされて幸せだった。フィリップの夜の相手は居なくなってしまったが、問題なく夜は更けていった。
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