第2話 コペルニクス的引きこもり脱出論
引き「ところで、コロナ禍ですが、しんどくはないですか」
かなえ「はい、コロナ禍自体はしんどくはないんですが・・、コロナのおかげで引きこもっていることが急に正義みたいになって、なんかついに私たちの時代が来たとかちょっと喜んでたら、でも、よく考えたら、それってなんか周回遅れで首位に立ってるだけじゃんみたいな、それ首位じゃないし、余計惨めだし、みたいな複雑な鬱になってます」
「な、なるほど、確かに複雑ですね・・💧 」
「でも、なんだかんだ言って、やっぱりなんか楽です。コロナが広がって世の中が引きこもっていることが正しいみたいになって、むしろ外に出ている人が悪みたいになっちゃって、こんなに引きこもっていることが社会的に承認されてる日々なんて初めてです。ちょっと、優越感まで感じちゃってます。ずっと家にいると、鬱になる人もいるとかテレビで見て、私なんか、引きこもってる方が楽なんだって、なんか変な上からな感じに浸ってます」
「そうですか。気が楽なのはよかったですね」
「なんか初めての経験です。今の私がなんか社会的に認められてる感じまでしちゃって。おかしいですよね。全然認められてるわけじゃないのに・・。というかやっぱり、お前はダメな奴ってことは全然変わっていないですから、社会的には・・」
「いえ、時代は引きこもりの方に来ていますよ。結局多様性なんです。その社会の価値観や生き方は安定ではないのです。社会や時代は変化する。今の社会に適応している人間が次の社会に適応できるとは限りませんから。だから、今は引きこもりの時代なのです」
「はあ・・、でも・・、なんかコロナ社会にも適応できているのかは・・、どうなんでしょう・・、そう言われて喜んでいいのかは微妙ですが・・」
「さて、さっきの話の続きですが」
「はあ・・」
「かなり率直ですが、外に出れないと何か困りますか」
「えっ?」
「部屋の中にいても、生きてはいけますよね」
「そりゃぁ・・、まあ・・」
「引きこもっていても生きてはいける。だから、引きこもっている。発想の転換をしましょう。外に出なくても生きてはいける。そして、幸せにもなれる。最近、僕はそんな発想で生きていくって手もあるのかなって思ってるんです。結局、どう生きたって幸せになれればいいわけで」
「はあ・・、まあ、確かにそうですが・・」
「僕が目指すのは引きこもっていても幸せな人生です。幸せは結局、幸せだと感じたもの勝ちなんですよ。状況や条件なんか関係ない。例えば、刑務所に入っている人でも元ホームレスだったら、そこは天国です。屋根も壁もあるし、ごはんも三食食べれる。そして、温かい布団もある」
「はあ・・」
「どんな状況でも条件でも幸せを感じる人は幸せを感じる。そのことに気付けていないんですよ。引きこもりは不幸だと勝手に思い込んでしまっている。条件反射で自分は勝手に不幸だと思い込んでいる。そこからの脱出なんです。引きこもりから抜け出すというのは」
「はあ・・」
「外に出れないと何か困りますか」
「いっぱい困りますよ」
「例えば?」
「・・・」
「どんなことが困ります?」
「急に言われても困りますけど・・、買い物とか・・、働けないとか・・、行きたいところに行けないとか・・、普通にやっぱ困りますよ」
「でも、買い物はめんどくさいでしょ」
「はあ、まあ・・」
「働くのも大変だ。働かなくていいにこしたことはない」
「はあ・・、まあ・・、それはそうですけど・・、でも、なんか違うような・・」
「基本的な生活は出来ているわけでしょう。特に今は、テレビもネットもある」
「はい・・、でも・・、やっぱり・・」
「実は、ずっと引きこもっていてもいいんですよ。外に出なくたっていいんです。出なきゃ出なきゃと思い込んでいる。でも、ほんとは出なくていいんです。そのことにみんな気付いていない。でも、私は気付いてしまったんです。その恐るべき事実に」
「いや、それは・・、っていうかあなたは私を外に出そうとしてるんですよね・・?」
「そうです。外に出れるようにしながらも、それはしかし、引きこもっていてもいいという、つまり引きこもりを否定しつつ、でも、肯定してしまうという従来ではありえない、コペルニクス的大転換の全く新しい引きこもり脱出論なんです。つまり引きこもっていてもいいんですよ。引きこもっていても引きこもったまま引きこもりから脱出できるんです。僕はそれを発見してしまった」
「はあ・・、なんか・・、勢いで納得しそうになるんですけど、でも、やっぱなんか違うような・・」
「これはすごい発見なんですよ。もっと興奮してください」
「はあ・・、でも、やっぱり・・、なんか・・、違うような・・」
「でも、困ることはないわけですよね」
「はあ・・」
「そう首を傾げないでください。困ることは何かありますか?実はないんですよ。引きこもりの状態は完璧なんですよ。そう完成されている。全てのあらゆる嫌なことやめんどくさいこと、傷つくことから守られた状態なんです。完璧なんです」
「う~ん・・」
「どうですか、そうでしょう?」
「はあ・・」
「そうなんですよ。引きこもりは外に出なくてもいいんですよ。出なくても、引きこもりというその中で幸せになれる。そうなんです。出なくていいですよ」
「・・・」
「どうですか。素晴らしいと思いませんか」
「・・・」
「これは事実なんですよ」
「恋愛が出来ない・・」
「えっ」
「恋愛・・」
「恋愛がしたいんですか」
「はい・・」
「じゃあ、外に出ないとね」
「だからそう言ってるじゃないですか。こんな基本的なとこに辿り着くまでにどんだけかかってるんですか」
「まあまあ落ち着いて」
「お落ち着けるか」
「恋愛は今やネットでも可能です。それに、外に出れないことのメリットもあるでしょう」
「はあ・・、えっ?・・、メ、メリット?」
「嫌な奴に会わなくていい。嫌な学校に行かなくていい。嫌な労働をしなくていい。とても素晴らしいメリットじゃないですか」
「はあ・・、まあ、それは・・、確かに・・」
「世の中の全ての人が羨む話ですよ。メリットの方が大きいんですよ。実際は」
「はあ・・、なんか納得しそうになるな・・、でも、やっぱり・・、なんか違うような・・」
「でも、そのことをみんな忘れている。気付いていない。発想の転換です。かなえさん。別に外に出なくたっていいじゃないですか。外に出なくてもいい環境は今ここに完璧に揃っているわけですよ。これは素晴らしいことなんです」
「はあ・・」
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