第26話 よく似た兄妹
招待状を渡すと待合室に通された。
幸いジュードとは別の部屋のようだった。
ヒッチから借りた本のとおり、ソファに掛けるとすぐ給仕が酒の入ったグラスを手渡してきたけれど、お酒なんて呑む気になれないよ……ダンスも控えているし。
たしか、飲まない場合はテーブルに置いておけばいいんだっけ。
隣のレオナはグラスを手に取り、ジーッと酒の水面を見つめている。
「レオナ。無理にお酒を呑まなくても————」
「クイッ……ん〜〜〜〜っ! 良いお酒っ!」
ショートグラスとはいえひと口で飲み切った。
レオもあれで大酒飲みだしなあ。
「いい飲みっぷりだね……」
「アッ! ご、ゴメンナサイ‼︎ いつもの調子でつい……女の子らしくないですよね」
恥ずかしそうに顔を赤らめているところなんてこの上なく女の子らしいと思うんだけどな。
「しかし、悪かったね。兄さんから聞いたと思うけど、今回の件は僕の個人的な因縁が発端なんだ。煌びやかなパーティだけど、君に苦労かけたり不快な想いをさせるかも……いや、もちろんそうならないように頑張るけど……」
「大丈夫ですよ! 全部分かった上でアーウィンさんを助けにきたんですから! 大船に乗ったつもりで任せてください!」
この子、兄さんそっくりだ。
明るくて頼り甲斐があって一緒にいるとホッとする。
「君たち兄妹って太陽みたいだ」
うっかり恥ずかしい言葉を口にしてしまった。
すると彼女は頬を赤らめた。
「アハハ……身内だからって兄のことそんなに持ち上げなくても良いですよ」
「別に慮ってなんかいない。アイツはできた人間だし、ああなりたいと心底憧れている」
レオ本人やアオハルの連中には恥ずかしくて言えないことだけど、初対面の妹相手だったらスラスラ言える。
そういえばレオについて誰かと話すのは初めてだな。
「感謝しているんだ。僕はあまり人付き合いとかできないタイプだけど、レオはそんな僕でも嫌にならずに相手してくれるし、お陰でちょっとだけまともな人間に近づけたと思う」
「……アンタは自分が思っている以上にちゃんとした人間だよ————って、兄ならいうと思います」
「さすが妹。兄さんのことがよく分かってるんだな。レオがそう言っているさまが目に浮かぶよ」
褒められて気恥ずかしいのか顔を隠すようにレオナはそっぽを向いた。
そうこうしているうちに定刻になり、僕たちは会場であるダンスホールに移動した。
伯爵邸のダンスホールは個人の持ち物とは思えないほど広く、円形の部屋の壁近くにたくさんの料理が載せられたテーブルがあり、立食形式を取っているようだった。僕は食事を摂る気にはなれなかったが、ここでもレオナはお皿に山盛りの料理を取ってきた。健啖な食べっぷりは隣で見ていると微笑ましかったし、いくらか気分が和らいだ。
集まったのは二十組くらいだろうか。
みんな上等なジャケットやドレスを身にまとい、堂々とした面持ちで歓談を楽しんでいる。ジュードも年上の紳士と話していたが普段の奴からは想像もできないほど腰が低い。良くも悪くも自分の立場を弁えているということか。
僕が周りを観察していると先日、レストランで会った老紳士エルンストが近づいてきて声をかけられた。
「ほっほ、今日はちゃんとめかし込んできたのう。少年」
僕は声をかけられ背筋を伸ばし挨拶をする。エルンストは自宅の庭を歩くかのように気楽な様子で目の合った人みんなに声をかけているようだった。
「意地悪な学友がいるというのによく来たのう。見上げた根性じゃ」
「いえ、いやその……お褒めいただき光栄にございます」
「カッカッカ、そこまで畏まらなくて良い。皆、トーダイの同窓じゃ。もし、そなたが場違いだと感じるのなら、相応しいところまで自分を高めて示して見せよ」
そう言ってエルンストは去っていった。僕の後ろに控えていたレオナがしみじみと言う。
「やっぱり、飛び抜けて偉い人は人間もできてるんだなあ。弱い人間にあたるなんて半端者のすることだよ」
「ん? 君はエルンスト卿の事を知っているのか?」
「えっ⁉︎ あー……そりゃあ……に、兄さんから聞かされていたから」
「ふぅん。兄妹でいろんなことを話すんだな」
ふと、レオは僕のことをレオナにどう伝えているのか気になった。
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