第11話 アーウィンの過去
トーダイ学院落第。
しかも特待生枠の入学者が進級できずにというのは前代未聞のことだった。
学院長が僕に授けた最後の言葉は、
「ありがとう。おかげで平民の特待生枠を削る口実ができた」
という皮肉だった。
寮を追い出されて戻った実家で待ち構えていたのは激しく怒る父だった。
僕の落第は父にとってもショックだったのだ。
「自分の子供が優秀な魔術師となれば、生まれが卑しいとバカにしてきた連中を見返せる」という希望が打ち砕かれた。
それは転じて「生まれの卑しいお前の子どもが魔術師として大成できるわけない」と現実を突きつけられた瞬間だった。
父は僕を勘当し、家から追い出した。
兄たちも父の言うことには逆らわないし、魔術の才能に嫉妬していた彼らにとっては胸の空く思いだったことだろう。
唯一、母だけは商会のお抱え魔術師として手元におくことを進言したそうだが、学院内で貴族に目をつけられていたことが商売の邪魔になりかねないともっともらしい言葉で跳ね除けられた。
それでも母だけは今でも僕の味方だ。
自分の動かせるお金を使って、ミナイルに僕が住む家を買ってくれた。
毎月、まとまった額の仕送りを送ってくれている。
冒険者として三流の僕が飢えることなく暮らせているのは母のおかげ。
ありがたいことだが惨めな気分になる。
稀な才能を持っていたはずなのに。
それを磨く環境を与えられていたのに。
全部自分の不徳のせいで大成することなく、母のお情けで生かされている。
働いていないのに飯が食える。
大した数の仕事をしていないのに冒険者ヅラできている。
落第したのにトーダイに在籍した過去が僕を有能な人間のように見せかける。
何一つ、得られていないのに生きていられる。
いや死んでいないだけの空っぽな人生。
それにひきかえ……アイツらはどうだろう。
うるさくて、粗野で、乱暴で、知性のかけらもない。
なのにいつも笑っていられる陽気な心を持っている。
笑い合って支え合える仲間がいる。
困難に立ち向かう勇気と強さを兼ね備え、命を懸けて戦うことができる。
ああ、そうか。
どうして僕がアイツらを見るとイライラしてたまらなかったのかが分かった。
僕はなりたかったんだ。
アイツらみたいな————
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