その3

(3)



(何故、俺を雇ったのか…)

 ハリーは闇鎮まる砂地の奥で焚火を見ながら思った。

 見れば慈空は夜の温度が下がった世界で砂地に身体を投げ出すようにして眠っている。

 ただ熱波が届かぬ夜とはいえ、砂地は熱波の熱を含み、快適な寝床とは言えないが、それでも慈空は僅かな小さな布切れを砂地に敷いて熱の遮断をして明日の満願を「迎える為に体力を温存するために眠りについた。

 僧の規則正しい息遣いと焚火の時折舞う火の粉の音だけが、夜の静寂を破る小さな音としてハリーの鼓膜奥に響いた。その小さな音が響く度、ハリーは『何故』を自分自身への問答として投げかける。


 ――『何故』、俺を雇ったのか?

  『何故』この僧は善人(カーリマン)になることが目的ではないのか?

  『何故』邪魔をするものが居るのか?


 …『何故』

  

 そこまで考えるとハリーは一人微笑した。

(考え得る事ではあるまい。俺は真理に迫る僧ではない。俺は…)

 その時、パチリとした音の中で小さな物音が聞こえた。それは砂地を規則正しく進んでくる――足音。

 そう認識した時、ハリーは精神刀剣(ストライダー)を引き寄せ、軽く鞘から抜いた。刀身は青白い炎を上げていない。それはつまり迫りくる存在が『造魔』では無いことを意味している。ならば、その存在は―――

「――慈空よ」

 その声が響いた時、火の粉が空へと舞い、夜蝶になった。それがやがて羽根を夜の闇で開いた時、闇の中で編み笠を被った人物を浮かび上がらせた。

 ハリーは半眼になりその姿を注視した。やがてその人物の姿形が分かると、半身を起こしていつでも刀剣を抜けるように身構えた。

 ハリーの面前に現れた人物。それは編み笠を被り、金剛杖を握った旅装姿の旅僧だった。 




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