その6 終わり
(6)
「…これは驚いたな」
ダンは言った。
「まさかこれ程見事なミイラに瞬時になり果てるとは…」
ダンはベッドに横たわる少女――いや今はミイラと化した骸に問いかける。
その側に精神刀剣を抱く様にして壁際に立つハリーがいる。
そのハリーに連れ立って少女の部屋に入るとそこには既にミイラと化した骸があった。
「お前…」
と言ってダンが振り向く。
「…つまり確認したという事か」
ハリーは唯黙して頷く。
「古き世界に於いて魔女メーディアは若返りの秘術を知っていた。それだけではなく、嫉妬も深いと聞いている。そしてそのメーディアの意識に最終戦争で散華した人間達の混濁した残留思念が残り、自分とは違う宗教の性格を受け、やがて誰かをこの新世界で探し回る造魔になった」
「成程な、それで儂がモニターで見たあの二重霊魂影(ドッペルゲンガー)。あれはその姿を見た者に死を告げる。まさにこの少女は――死に魅入られているというわけだったんだな。若い者が死に魅入られる…儂みたいな老人なら生い先が短いから何も思わないが、この造魔にとっては相当嫌な事だったんだろうな、どう思う?ハリー」
「さあな」
言ってからハリーは苦笑して黙する。
(ダン、そもそも問題が違うのさ。若さゆえに『死』を呪うという事ではなく、定めなき永遠を失ったという事の恨みを誰かに示したかっただけだろうさ)
黙するハリーへダンが言う。
「だがそれにしてもお前も余程の知識があると見える。それで…魔女が言った探している誰かとは、誰なんだ?」
「楽園(エデン)の敵と言った」
「それがお前のことか?」
ハリーがにべもなく答える。
「違う」
「そうか、なりゃいいさ。そんな造魔に付け狙われる奴を雇った何て知れたら、お前だけじゃなく儂迄クビだからな」
言うとダンは骸に目を遣った。
「明日にはこれを運び出さなきゃいけねぇな。カンザスから死体受取人を呼ばなきゃなるまい」
「で、どうやって説明するのさ。これを」
ハリーの問いかけにダンが一瞬間考え込むと言った。
「奇妙な事が起きた――とだけ言うさ」
それを聞くや、ハリーは思わず口元を緩めた。
「それよりもこの部屋を綺麗にメイキングし直さなければ戻って来たマリーに何て言われるか分からないからな」
言うとダンは部屋のドアを締めてフロントへと向かった。
一人部屋に残されたハリーはミイラと化した骸の側の椅子に腰かけた。するとミイラと化した少女の指に小さな指輪が見えた。その指輪を見てハリーはこれがゴーレムを術につなぎとめたものかもしれないと思った。
巨人タロスはきっとこの指輪の呪力によって古き世界で魔女メーディアに従って生きることになったのだろう。
それは巨人タロスを従わせるほどの強力な力――おそらく、男女の人間をそれ程までに縛り付けるものとは何か、そう思うとハリーは再び笑みを浮かべないではいられなかった。
――人間の男女の原型とはまさにこれであろうと。
自分自身もマリーという女に叱られるように日々従って生きている。
ひょっとしたら創世の頃に生きたであろう人間の男の姿は新世界においても寸分も変わっていないのではないかと思うとハリーは心の中で再び苦笑が浮かべて、ミイラと化した少女の指に輝く指輪を見つめた。
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