その4

(4)

 

 森の木々が夜風に吹かれる音がハリーの鼓膜奥に響く。夜闇を吹く風に葉が重なり合う音、その中に自分へと向かってくる足音が二つ。一つはまだ見ぬ暗闇の奥から迫りくる造魔。そして背後から来る何かを引きずる様な重い足音。それは、あの少女が連れ立つ泥人形(ゴーレム)。

(それにしても…)

 ハリーは思いを巡らす。先程の夕餉で見た少女は人間だ。間違いがない、ならばこそ、ダンが少女を見て言った――全く何も変わっておられない――それは虚言なのか、

(…いや、それだけでない)

 ダンは邂逅の世界で言ったではないか。


 ――『私は死に魅入られた者』と


(…ならば)

 ハリーは背後から迫りくる造魔を振り返り思った。

(お前は何ゆえにこの世界に生を受け給うたアーダムよ、お前はあの時より唯の従うだけお存在なのか)

 その時、ハリーは前から迫る強い魔を感じた。

 ハリーは振り返る。すると造魔の姿を見ようとするハリーの裸眼に夜風の粒子が突きささる。

 そう、そこに現れた造魔の姿を見たハリーは思わず嘆息の声を上げた。そして声を上げるとゆっくりと鞘から精神刀剣を抜いた。その剣先に青白い炎が燃え上がる。その青白い炎の明かりで面前に立つ造魔の姿がはっきりとハリーに見えた。

 それは…

 その姿を見てハリーは小さく呟いた。

「成程、死に魅入られた者とはこういうことか…」

 ハリーは自分を見て立ち止まった少女を見て言った。

「…つまりあの少女を追う者とは、二重霊魂影(ドッペルゲンガー)」

 そして背後から泥人形(ゴーレム)が姿を現すと、ハリーは背後を振り返ることなく言った。

「…という事は、あの少女がゴーレムの術者か…、そしてこれは俺を此処に差し込むために仕組んだ罠だな…」

 そう言われた少女はハリーの声を聞くと小さく嗤った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る