第2話
(2)
造魔は言った。
「…俺は、いや私は、自分を探している、違う…自分を探しているのか、それとも自分の失われた何かを探しているの…追って、此処迄、やってきた」
混濁する精神と意思が戦士にもあるのか、何かを確認するように言葉を放つ。放つと戦士は手にした太い鎖を手繰り寄せた。手繰り寄せる物が重いのか、地面をする音がする。
ハリーには巨躯の造魔の戦士が手繰り寄せた鎖の先に吊るされている物がはっきりと見えた。
それは鉄球だった。
恐らくハリーの頭部よりも大きく、それだけはなく鉄球には無数の棘が見えた。
この巨躯の戦士はそれを振り回して、相手を斃すのだろうか?そうハリーが思った時には、勢いよくその鉄球が目にも止まらぬ速さで自分の頭部めがけて飛んできた。
ハリーはそれを視野の中に確認した時には素早く剣を振り上げ、事もあろうに迫る鉄球を面前でいとも簡単に弾き飛ばした。
それはまさに恐るべき技量と言えた。
振り上げられた剣は刃こぼれすることなく月光に輝いたまま、鉄球はハリーの頭部を粉々にすることなく巨躯の戦士の足元に音を立てて落ちたのだ。
まさに何者をも凌駕するハリーの技量に対して、敵対する造魔の方が驚くべき声を上げた。
「…おお、この私の鉄球を弾き飛ばす程の技量を持つ戦士が居ようとは、俺が…聖者の為に剣を抜いて以来、初めて見る恐ろしい戦士だ」
巨躯の戦士は兜を揺らしながら、今度は大きく腕を横殴りにして鉄球をハリーに向かって飛ばす。伸びる鎖の音が唸り、ハリーに迫るが、しかしハリーはその鉄球をまたいとも簡単に振り上げた上段から見事に下段に振りおろし、今度は弾き返すのではなく、真っ二つに切り裂いた。
どさりという音が確かにして、鉄球は地面に転がった。この間僅か数秒でしかない。
鉄球が転がり止まるとハリーは剣を引き相手を突く構えになった。その鋭利な切っ先が見つめる先は、巨躯の戦の首だった。それを見て鉄球を失った鎖を振るって空へ放り上げた戦士が、鎖を頭上で回転させながらハリーに言った。
「今宵は密月の満月迄あと一日ではあるが造魔である我らが、つまり逢魔が時であるのにお前は見事なまでに、それを凌駕するような力を放っている。俺の心に浮かぶのはお前が何者だ?という疑念だが、だが今の私には戦士としての昂ぶりが全身を駆け巡っている。嬉しい、嬉しいぞ。名を知らぬ戦士よ、俺は今宵がこれほど嬉しい時はない」
鎖が異常ともいえる速さになり、周囲に風を呼び起す。それは辺りの草木を吹き上げ小さな竜巻になった。その巻き上げる風の為にハリーの黒髪が揺れ、端正な顔つきが月光に露になった。
「美しい戦士よ。俺はお前を斃し、お前の首を拾い、やがてお前達が匿うあの異常者の目をくり抜き、皮を剥ぎ、私の、俺のものを返してもらう、私は死を呼ぶ戦士なのだ!!」
巨躯の戦士が雄たけびを上げた時、ハリが言った。
「聞け、造魔。俺の名はハリー、だが名を覚えたとしても黄泉の世界では何も役には立つまい」
「何!!」
その刹那、ハリーが巨躯の戦士へと見事な跳躍を見せた。それはまるで時よりも早く、そして彼が地上に再びその足を着いた時には既に巨躯の戦士の首は音も立てず、地面に転がっていた。
沈黙は鎖を振り回す巨躯の戦士の腕が止まってから訪れた。
静寂がハリーの背に流れて行く。ハリーは構えた剣をゆっくりと静かに鞘に納めようとした。しかし、その腕はピタリと止まった。それはそこに動きだそうとする空気反応を感じたからである。
そう、それはハリーが首を突き切ったあの巨躯の戦士が動き出したのだった。
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