第3話

(3)


 ハリーは剣の切っ先から伝わる意味を分かっている。その意味とは何か?それは自らが伸ばした切っ先は確実に巨躯の戦士の首を貫き、裂いたということだ。

 造魔であっても首を切られれば、魔の源である奇石『奇蹟(ミラクル)』に融合した精神及び魂は切り離され、後は跡形も無く唯消える。ならば既にこの巨躯の造魔は膝から崩れ落ち、やがて奇石だけを残して霧散しなければならない。

 だが…、

 ハリーはゆっくりと背後を振り返った。東部の兜が地面に転がり落ちているのが見えた。しかしこの巨躯の造魔は事もあろうに腕を動かしてその兜を拾い上げてると、やがてハリーに向き直ったのだった。

 ハリーもまた同じように向き直る。向き直って剣を下段に構えると、やがて半眼のまま静かに言った。

「…成程、精神刀剣(ストライダー)で首を切り落とされても尚、奇石からその魂も精神も切り離されない造魔がいるとすれば…」

 ハリーは下段から大きく刀を振り上げ、やがて腕と片足をゆっくりと引いて中腰になると剣を後ろに引いた。それはまるで何かを撫で切るかのような動きだと巨躯の戦士には見えた。

「つまり…お前は首無し騎士(デュラハン)ということか」

 ハリーの答えをかき消すように、巨躯の戦士は鎖を振り回して、風を唸らせてハリーめがけて投げつけた。その鎖は確実にハリーの頭部を巻き付けて破壊しようとする死の鎖だった。

 だが、見よ。

 ハリーはその鎖を面前で僅かに首を揺らして躱すと、地面を強く蹴った。彼は躰を低くして跳躍し、それはまるで鎌が回転するように巨躯の戦士へ向かってゆき、死の鎌となって巨躯の戦士の胴を薙ぎ払う刃を繰り出したのだ。

 生と死が瞬時に入れ替わる。

 ハリーの刃は巨躯の戦士の胴を薙ぎ払う。だがそこにはいつ構えられていたのか、盾があった。いつこの巨躯の戦士は盾を出して身構えたのだろうか、その盾にハリーの精神刀剣の刃は弾かれた。

 ハリーは弾かれた衝撃を体内に吸収して、大きく後方へ飛んだ。そして着地すると低い姿勢のまま、戦士の方を見た。

 巨躯の戦士は手に大きな盾を持ち、そして鎖を手にしたまま、不動の姿勢でハリーを見ている。だが戦士の頭部に兜は無い。恐らくそこにあっただろう戦士の虚構の眼差しがハリーを見つめていた。

 対峙することどれくらいの時が経っただろうか、巨躯の戦士が足を上げて地面に転がる兜を踏み潰すとハリーに言った。

「これほどの力を増す逢魔が時ですら、お前と五分の勝負。となれば、俺が、私がお目に勝つには明日の満月を待たねばなるまい」

 ハリーは黙って聞いている。

「ならば今宵は決着を避け、また明日の夜に再び此処に来よう。美しい戦士よ、明日再び相まみえるのを楽しみにしている。その時はこの私、いや俺が持つ最高の武器でお前を仕留め、あの人間が持ち去ったものを取り返すとしよう」

「明日を俺が待つとでも思うか、造魔」

 言うや、ハリーは走り出した。走り出しながら精神刀剣(ストライダー)に青白い炎を浮かび上がる。これはハリーの精神が一段と燃え上がった証拠だった。

 ハリーは飛び上がり、そして刀を振り下ろすと巨躯の戦士の身体を真っ二つに切り裂いた。

 が、…

 しかしそこには影もなく、巨躯の戦士の姿は何処にも無かった。

 ハリーは振り下ろして地面に深くめり込んだ刀を振り上げると、周囲を見渡しながら気配を探った。だがそこには夜影に交じる草木を揺らす夜風の音しか聞こえず、あの巨躯の戦士の気配を感じることはできなかった。


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