第141話 Lebe für Liebe~愛に生きる(1)
「あの先生は。 真尋の遠い将来のことまできちんと考えてくれてたんやな、」
シェーンベルグのレッスンスタジオを出た後、南はポツリと志藤に言った。
志藤は何も答えなかった。
今まで自分が真尋にしてきたことは。
何だったんだろう・・
そんな彼の心を読んで、
「もー! 元気出しなさいよ! 真尋がああやってピアノをきちんと仕事にしていこうって気持ちにしたのは志藤ちゃんでしょ? あのコンチェルトで真尋の運命は動きだしたんだよ? ほんっとお気楽であんなにめちゃくちゃだけど欲がなくて。 その真尋をあそこまで引っ張り上げたのは志藤ちゃんじゃない、」
南は彼を励ました。
「真尋のピアノ。 めっちゃ変わってたな~。 だいじょぶなのかなあ、」
志藤はやっぱりそんなことをつぶやいてしまった。
真尋と絵梨沙はその後、真理子と3人で食事をした。
真理子は真尋と楽しそうに食事をする娘にホッとしていた。
やっぱり
ウイーンに連れてきてよかった・・
自分の判断が間違いではなかったと思った。
絵梨沙は真尋のアパートに一緒に戻った。
「真尋は明日はコンクールなんだから。 あたしがソファに寝るわ、」
「え、いいよ~。 どうせいっつも適当なトコでねちゃうし。 絵梨沙がベッドで寝て。」
相変わらず狭いベッドに二人で眠ることはできそうもなかった。
「ま・・明日も体力遣うしな。 今日もやめとくか。」
真尋はつまらなそうにクッションを抱きしめながら言った。
「え??」
「絵梨沙とすんげえシたかったけど。 でも。 今日は早く寝る。」
真尋の笑顔に絵梨沙は苦笑いをした。
あれから。
少しだけ『そういうこと』が怖かった。
真尋とでも、本当はキスをするだけでドキドキする。
無理やりとはいえ、あの人に身体を触られた。
あのまま力ずくでどうにかなってしまったかもしれない。
そう思うと身体の芯からゾッとした。
本当は彼に抱きしめられたいと思う反面、少し怖い気持ちもあったのでちょっとホッとした。
真尋は疲れていたのか、コテっと寝てしまった。
彼に毛布を掛けながら、今日のピアノを思い出していた。
真尋は
シェーンベルグ先生の厳しいレッスンに耐えて頑張ってる。
自分のピアノを変えてまで、次のステップを目指そうとしてる。
それに引き換え・・あたしは。
もう情けなくてやりきれないばかりだった。
翌日。
真尋の2次予選が行われる。
志藤と南はシェーンベルグと一緒にやってきた。
絵梨沙とは彼女の気持ちを思い、距離を置いた。
偶然とはいえ、こんなところで自分たちと会って絵梨沙がいたたまれない気持ちになっていることがよくわかったから。
真理子は
こうして絵梨沙が真尋のピアノを聴いて、ひょっとして彼女自身がピアノを弾く歓びを思い出してくれれば、と淡い期待をしていた。
絵梨沙は他の出場者の演奏を聴くときも、無表情で何も言わずにただ舞台上を見ている。
なんの感情も沸かないように。
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