第132話 Sturm~嵐(12)

「絵梨沙は・・子供のころから本当に人見知りでおとなしくて。 人づき合いが苦手な子だった。 この世界に入るとそんなことも言っていられないし。 無理をさせることになって、」



真理子はそっと娘の頭を撫でた。



「ううん・・私が・・私が弱いの。 もう情けなくなるくらい。」



絵梨沙は涙をポロっとこぼした。



「ピアノだけ・・弾いていたかった。 ピアノだけ・・」




娘の不器用な気持ちが手にとるようにわかった母は



「・・少し休みなさい。 志藤さんには私から話をしておくから。」



「ママ・・」



「真尋くんのところに行きたい?」



どきんとした。




真尋の名前を出されて非常に動揺した娘を母の眼は逃さなかった。




「・・ま、真尋は。 ウイーンでコンクールが・・もうすぐ・・」



絵梨沙は涙を手でぬぐってそう言った。




「本当の気持ちを聞いているの。 あなたのホントの気持ち。」






母はまっすぐに絵梨沙を見た。



「自分の気持ちをしまいこまないで。 今は。 絵梨沙のしたいようにしていいから、」



その言葉に押されるように。



そして



どこを見ているのかわからない瞳からは、はらりと涙が零れ落ちた。




「真尋に・・会いたい。 真尋の・・ピアノが聴きたい・・」



絵梨沙はようやく心の中を口にすることができた。







「ウイーンへ???」



フェルナンドは驚いた。



「迷惑をかけることになるけど。 今は彼の所に行かせてあげたいの、」



真理子はうつむいてそう言った。



「しかし・・」



「あなたの気持ちもわかります。 絵梨沙のことを思って一生懸命にサポートしてくれて。 本当にありがたいと思ってる。 でもね、絵梨沙はピアノを弾くのが怖いって・・言うのよ。」



「怖い・・」



「今はじっくり休ませてやりたい、」



母の気持ちになりそう訴えた。


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