第131話 Sturm~嵐(11)
「エリちゃんが・・??」
南は目を丸くして驚いた。
「ん・・さっきフェルナンド先生から詳しい電話があって。 どうもただの貧血じゃあないみたいやねん、」
志藤は頬杖をつきながら暗い表情で言った。
「ピアノが弾けないんやって、」
「え・・」
衝撃の言葉だった。
絵梨沙は目を閉じると
ウイーンでの楽しかった日々だけを思い出す。
真尋と一緒に
ピアノを弾いて。
真尋のピアノも聴いて。
彼のピアノが聴きたい・・
気持ちがすぐに揺れて涙ばかりが出てくる。
「真尋には知らせなくてええの?」
南は心配そうに言った。
「フェルナンド先生も言ってたんやけど。 真尋・・・明日からコンクールの予選が始まるねん。 心配掛けたくないって・・」
志藤は煙草の煙をくゆらせた。
「エリちゃん・・心細いやろなあ。」
南は遠い外国であの頼りなげな様子でいるであろう絵梨沙のことが心配でたまらなかった。
「ママ・・?」
絵梨沙は突然現れた母に驚いた。
「もー。 心配で。 飛んで来ちゃったわ、」
真理子はにっこり笑って娘を安心させようとした。
「ごめんなさい・・」
母にまで心配をかけたのかと思うと、また落ち込む。
真理子は絵梨沙のベッドの端に腰かけて
「謝ることないのよ。 いつだって私はあなたを心配してたんだから。 マークがね、やっぱり母親じゃないとダメかなって、」
とクスっと笑った。
絵梨沙は母の顔が見れなかった。
父と離婚してから
自分との生活のために懸命に仕事をして、そして自分を一流のピアニストにするために力を尽くしてくれて。
それなのに
その憧れのピアニストになれたというのに、自分はこのようなことになってしまった。
「絵梨沙。」
母は娘の頬に手をやった。
「マークは自分が絵梨沙のことをわかってやれていなかったんじゃないかって・・悩んでいたけど。 私だってあなたのことをわかってやれていたのかって・・」
そして、震える声でそう言った。
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