第130話 Sturm~嵐(10)
「絵梨沙・・?」
異変に気づいたフェルナンドは彼女に近づく。
その時、絵梨沙が見ていた光景がぐちゃぐちゃになったかと思うと、
そのまま崩れ落ちるように倒れてしまった。
「絵梨沙!!」
父の声も遠くに聞こえて。
どのくらい眠っただろうか。
ふと目を覚ますと、傍らに父が腰掛けていた。
「・・気がついた?」
「私・・」
「リハの途中で急に倒れたんだ、」
その時、コンサートの仕事を思い出し
「こ、コンサート・・」
慌てて起きようとしたが、
「・・今日は。 キャンセルさせてもらった。 お医者さまが貧血を起こしたんじゃないかって・・」
フェルナンドはそれを制した。
「キャンセル・・」
仕事に穴を開けてしまったことに、また罪悪感がいっぱいになって。
「なれない生活で疲れていたんだね。 それに気づいてやれないで、」
申し訳なさそうに言う父に
「・・パパのせいじゃない。 私が・・」
その時フラッシュバックのようにあの『恐怖』を思い出してしまった。
いきなり頭を抱えたかと思うと布団を被ってしまった絵梨沙に
「・・どうしたの?」
フェルナンドは驚いた。
彼女の体は見てわかるくらい震えていた。
「絵梨沙???」
「こわい・・」
小さな震える声で言った。
「え・・?」
「・・怖い。 怖い・・」
子供のようにそう繰り返すだけだった。
「どういうことなの・・?」
電話口の絵梨沙の母・真理子は驚いていた。
「原因はわからない。 ただこっちで仕事を始めてからすごく疲労が溜まっていたんだろうけど。 絵梨沙は自分の世間からの批評を必要以上に気にしていてね。 いつもいつもコキ下ろされるような記事を見ると、ものすごく落ち込んで・・」
フェルナンドの声も沈んでいた。
「絵梨沙はピアノに触れることもできなくなってしまったんだ・・」
その言葉に真理子は息を呑んだ。
絵梨沙はベッドの上で無表情に横たわるだけだった。
その手には真尋からの指輪がしっかりと握られていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます