第125話 Sturm~嵐(5)

「まだいたのか・・。とっとと帰ればいいのに、」



目を覚ましたシェーンベルグはそんな憎まれ口を叩いた。



「お医者さんが。 こっちに身寄りがないってゆーからさ。 奥さんは?」



「もう10年も前にあっちの世界に行っちまったわい、」



おもしろくなさそうに言った。



「そうかあ。 最近はレッスンとかしてないって言ってたけど・・。 あそこでなにしてたの?」



今までこの人のことに関しては何一つ知らなかったが、急に興味がわいてきた。



「そんなこと。 わしの勝手だろう、」



「先生も。 昔はピアニストだったんだろ?」



「20代半ばころ。 肋膜を患って。 ピアニストは諦めた。」



シェーンベルグはぽつりぽつりと話し始めた。



「それから音楽院の先生になったんだあ、」



「まあ。 星の数ほど生徒を持ったけど。 だいたい1度ピアノを聴けばどの程度なのかわかるな、」



真尋はニヤっと笑って



「んじゃあ。 おれはちょっとは見込みがあるってこと? 倒れるまで夢中になってやってくれたんだし、」



と言った。



すると眉間にしわを寄せて、



「本当におまえは図々しいな、」



と苦々しく言った。



真尋はクスっと笑って、さっき買って来た専門雑誌をぱらぱらとめくった。



すると。



「あ・・」



絵梨沙がNYの大きなホールで単独のコンサートを開いたという記事が載っている。



「絵梨沙だあ・・」



思わず顔がほころぶ。



それを見てシェーンベルグがそれを覗き込んでその雑誌を奪い取った。



「・・フェルナンドの・・娘か。」



「え、知ってるの?」



「いちおう話題の演奏家はチェックをしている。 」



「やっぱり話題なんだあ~~~。 そーだよなあ、ここにもその美貌がって書いてあるもんな~~~、」



ニヤついて言うと、



「容姿だけでなく。 派手なピアノが弾ける子だな。 文句なく、上手い。」



絵梨沙のことをほめたので



「そーだよなあ。 絵梨沙は上手いんだよなあ・・。」



今さらながら頷いた。



「以前よりも幅も出たし。 まあ、これからだな。」



真尋はムフフと笑って



「絵梨沙は。 おれの彼女なんだ~~。」



と言うと、シェーンベルグはぎょっとして



その写真の絵梨沙と真尋を何度も見比べた。



「・・もっとマシなウソをついたらどうなんだ、ありえん!」



「え~~、ホントだって!」



「この世の終わりだな、全く!」



「何への怒りだよ、も~~~、」



少しだけ



巨匠に近づいた気がして。



少なくとも



仙人ではないな、と思ったりもした。

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