第126話 Sturm~嵐(6)
シェーンベルグが休んでいた3日間は、真面目にひとりで練習をした。
言われてもいないのに、またエチュードから始めたりして。
少しずつ『異変』に気付き始めた。
なんか。
音がクリアな感じがする。
音が自分の耳にもはっきり聞こえるきがした。
鍵盤がすごく馴染んできている。
あれ、おれ
こんなんだっけ?
自分でも驚きだった。
「見たよ。 雑誌。 すげーじゃん、」
久しぶりに絵梨沙と電話で会話をした。
「・・なんて、書いてあった?」
絵梨沙はおそるおそるのような声を出した。
「え? すんごいいいことばっかり書いてあったよ。 こんな美しいピアニストがいただろうか、とか。 華やかでショパンの世界をそのまま再現してる、とか。」
すると絵梨沙は
「そう、」
すごくホッとしていた。
「真尋も・・頑張っているのね。 ぜんぜん連絡なかったし、」
「え~? そりゃもうバイトもしなくちゃだし、ジイさんはめちゃくちゃ厳しいし。 学校行ってたころより忙しい・・絵梨沙も忙しいんだろ?」
「・・うん、まあ、」
「なんか元気ねえなあ。 大丈夫?」
絵梨沙は少し間があって
「・・大丈夫よ、」
と、静かに答えた。
「あー・・こうやって声を聞いてると。 会いたいな・・」
「もう。 そんなこと言わないで。 私だって、」
「でも。 ほんっと忙しくって。 最近『性欲』もわかねーよ、」
彼らしいとんでもない発言に
「・・また、そんなこと言って、」
つい笑ってしまった。
「ホント。 おれ浮気なんか絶対してねーからな。 絵梨沙こそ。 色んなヤツが寄ってくるだろうけど、気をつけろよ。」
「大丈夫よ。 パパがいるし。 でも・・真尋のコンクールは見てみたいな、」
「決勝までは絶対に残るから。 そしたら見に来て、」
「ウン、」
明るくそう言ったが、電話を切ったあとの絵梨沙は
深い深いため息をついた。
「絵梨沙。 取材の時間だよ、」
父が呼びに来た。
「・・ハイ、」
重い腰を持ち上げた。
自分のことで頭がいっぱいの真尋は
NYでの絵梨沙の状態が全く見えていなかった。
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