第124話 Sturm~嵐(4)

「先生??」



真尋は彼の身体をゆっくりと揺すった。



「ん・・」



苦しそうな声を出す彼を不審に思い、額に触れた。



「え! 熱あるって! どーしたんだよ・・」



「・・うるさい・。 なんでもない、」



咳をしながらのっそりと起き上がった。



「なんでもなくねーだろ。 医者に行かなくちゃ、」


「だから・・放っておけ、」



鬱陶しそうに彼の手を払った。



「その年なんだからムリしたら大変なことになるだろーが! 強がってる場合か!」



真尋は慌てて彼を抱えて起こした。



彼がいつも掛かっている病院におぶって連れて行った。



「また先生は無理をして・・」



医師は診察をしながらため息をついた。



「風邪ですか?」



真尋が訊くと



「まあ、そうだね。 大事をとって今日はここに入院させるよ、」



医師はニッコリ笑って言った。



「わしは入院なんかしないぞ!」



まだそんなことを言っているシェーンベルグに



「先生。 くれぐれもムリはしないようにって言ったでしょ。 約束を守れないのなら・・・。 娘さんのところに連絡しますよ、」



医師のその一言でおとなしくなった。





彼が別室に連れて行かれたあと、医師は真尋に



「きみは? 学生?」



と聞いてきた。



「えっと・・学生じゃないんですけど。 今、先生のトコでレッスンを受けてて・・」



そう答えると医師は少し驚いて



「え、先生はもうピアノを教えるのはやめるって言ってたけど、」



と言った。



「え、ほんとですか?」



「2年前にちょっと大病をしてね。 あまりムリができないから。 娘さんはザルツブルグに住んでいるんだけど、何度も一緒に住むようにって彼女からも言われているのに・・承知しなくて。今はひとり暮らしだよ。」



「そうだったんですか・・」



「てことは。 よっぽどきみにご執心なんだなあ。」



医師は笑った。



「はあ?」



全くそうは思えなかったので、首を捻った。



「今回は肺炎も起こしていないし、大丈夫そうだけど。 念のため1日~2日入院して検査するから。」



医師はそう言って真尋の肩をポンポンと叩いた。



無理しちゃって。



真尋はそのまま病院のベッドで眠りこむシェーンベルグを見た。




この年で。



ひとりで住んでんだ。



もうレッスンはつけてないって言ってたけど。


おれが来る前はどうして過ごしていたんだろう。



あのピアノの部屋で。

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