第123話 Sturm~嵐(3)
何言ってんだ・・
このジイさん
真尋は激しく動揺した。
「ふん。 今さら驚いて。 おまえは自分で自分のピアノの秘密に全く気づいていなかった。 それは・・素人のピアノだ! プロなんかじゃない! プロは毎回正確で同じピアノを弾いても、人を感動させることができる。 カンペキなピアノを弾いてそれができたなら・・それはホンモノだ! おまえはまだまだまがい物のピアニストだ!!」
シェーンベルグは杖をビシっと真尋に向けた。
ハッと目を見開いた。
「ホンモノのプロになりたかったら。 コンクールで減点なしの演奏をしてみろ。 ただ正確に弾けばいいってもんじゃない。 そんなに甘くないからな。」
何も
反論できなかった。
子供のころから
ああしろ、こうしろ、と命令されるのがイヤだった。
そんなこと言ってくるピアノ教師とはすぐに離れた。
同じことを言っているのに
なぜかこの老人の言葉には逆らえない何かがあった。
最初は
街の小さなピアノバーのピアニストになれればいいと思っていた。
それが
志藤と出会って、自分のピアノを人に聴かせる意味を教わり
それを職業にするということを自覚した。
そして。
たぶんこの人からは
『一流ピアニスト』になるための
ノウハウを教わることになるのかもしれない。
自分が描いていた将来の図が
いつの間にかに方向が変わっていた。
それはきっと
自分がどこかで『超一流』と言われるピアニストとして世間に認められたいと
少しずつではあるが自分からそっちの道へと歩いて行ったからだ。
真尋はふうっと大きな息をついて両手をだらんと降ろした。
学校をやめて、絵梨沙と離れて。
おれがいましなくちゃいけないことは。
これなんだ。
もう後戻りなんかできないんだ。
覚悟を決めた日だった。
コンクールは12月の下旬。
あと2ヶ月半。
真尋はシェーンベルグの厳しい練習に黙々と打ち込んだ。
あんなに反抗していたのがウソのように。
ある日。
自分が弾いている間にシェーンベルグはソファで眠ってしまったようだった。
それはいつものことだったのであまり気にしなかった。
「んじゃあ。 今日は帰るよ。 こんなトコで寝てっと。 風邪ひくよ。」
帰り際真尋は彼に声をかけた。
「ん・・」
いつもと様子が違うことに気がついた。
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