第13話 Eine Öffnung~はじまり(13)
「うーん。 ちょっと最後、走りすぎていたかな。」
父は少し渋い顔でそう言った。
学校の帰りに父の所に寄って少しだけピアノを聴いてもらった。
あの人に
あんなことを言われて
精神状態はあんまりいいとは言えなかった。
「じゃあ・・今日はこれで。」
うつむいてバッグに楽譜を入れた。
「送っていくよ。」
父はそう言ったけど
「ううん。 まだ時間は早いし。 すぐそこなんだもの。 大丈夫よ。 パパも忙しいんだから、」
やんわりと断った。
何だか今の気持ちを父に悟られたくなかったから。
それから
学校内で彼の姿を見かけるたびに、隠れるように避けていた。
自分がどうしてこんなことをしなくてはならないのか、とバカバカしく思うのだが
あの人がすごく
怖かった。
あのデリカシーのない物言いや
見かけではなく
何だか自分の心のうちを見透かされれているんじゃないかと思うだけで
心臓がドキドキして冷静でいられなくなる。
そう思えば思うほど
彼がこのたくさんいる人の中で目立つような気がして
ドイツ語が全然わからないと言っていたのは、ついこの間なのに
気がつけば彼の周りにはたくさんの友人たちが集まっていた。
校舎の裏手に作られている3 on 3用の小さなバスケットゴールがあり、学校を出ようとしたときにそこで彼が友人たちとバスケットに興じている姿が目に入った。
笑いながら
いつの間にかカタコトのドイツ語で。
しかもそれがちゃんと通じるレベルだったので、思わず立ち止まって彼の姿を見入ってしまった。
その視線に気づいた彼はボールを友人にパスして駆け寄ってきた。
「今帰り?」
そいう声を掛けられてハッとした。
「・・・」
黙って帰ろうとすると、
「コンクールもうすぐだね。 頑張ってね。」
と、明るく声を掛けられた。
自然に足が止まった。
「バスケットなんかして。 つきゆびでもしたらどうするの、」
何でこんな余計なことを言ってしまったのか。
「え~? そんなの平気だよ。 おれ高校時代ずうっと野球やってたもん、」
その言葉に
「はあ???」
思わず振り返ってしまった。
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