第11話 Eine Öffnung~はじまり(11)

課題曲も自由曲も、もうカンペキだった。



父と共に私の実力の100%を引き出せる選曲をしたつもりだった。



レッスン室が空いている時は率先して使わせてもらった。



得意なのは



ショパン。




ショパン国際コンクールは再来年行われる。




それに出場することが今は最大の目標だった。




マズルカ ホ長調6-3




大好きな曲だ。




本選で弾く予定の曲だった。




一心不乱にピアノを弾き終えると




「すっげー!! うまいっ!!」



あのけたたましい声と拍手でビクっとするほど驚いた。




「な・・」



いつの間にかに彼が入って来ていた。



「すごーい! 巧いんだ~~。 やっぱフェルナンド先生の娘だけあるよな~~!」



「か、勝手に入ってきて!」



褒められたことよりも



いつの間にか部屋に入ってきていたことのほうに腹立たしかった。



「あ、ごめんごめん。 チラっと窓からのぞいたらさあ。 すんごい一生懸命弾いてっから。 どんなピアノ弾くのかな~~って。 そんだけ、」



また子供みたいに。




そんだけって。



この人ってどこかズレてる。



「こんなん今レッスンでやってるの?」



「・・コンクールで弾く予定の曲よ・・」



楽譜をしまいながらブスっとしてそう答えた。




「コンクール?」



「今月末にある『シュタウト・ピアノコンクール』」



説明するのも面倒だった。




「は~~。 うまいもんね。 コンクールがほっとかないか、」




だから



意味わかんないんですけど。




思わずため息をついた。



そんな私の顔を彼はジッと見ていた。



「な・・なに??」



気味が悪くて思わず後ずさりした。




「そんなかわいいのに。 ピアノ弾いてるとき、なんで怖い顔してんの??」




彼の口から出たその言葉が



私の心にものすごい鋭利な刃物をつきたてられたように


深く



深く


それからも心に刻まれることになった。



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