第10話 Eine Öffnung~はじまり(10)
鍵をバッグから取り出しながら階段を上った。
日本のマンションと違って、5階建ての建物だけどエレベーターがない。
5階しか空き部屋がなくて仕方なく契約したけど、音楽院の近くにあるだけあって音楽を志す生徒ばかりが住んでいる。 その部屋に既にピアノが据え置いてあったこともここに決めた理由だった。
古い建物だけど防音もしっかりしている。
部屋の鍵を開けようとした時
いきなり隣のドアがガバっと開いた。
ものすごく驚いた。
隣なんて誰が住んでるかよくわからなかったし。
どうせ学生だろうと思って特に気にもしなかったから。
しかし
「あれっ・・??」
出てきたのは
あの『大男』だった。
「いや~~。 偶然だね。 隣同士だったとはね。 やっぱさあ。 運命感じない? おれきみに会ったときからさあ、なんっかすっごい赤い糸的なもん感じてたんだよね~。」
悪い夢を見ているようで
わなわなと震えてしまった。
なんで
なんでこの男が隣に!!??
「明日からさあ、一緒に学校行かない??」
とどめの子供のようなその『お誘い』にブチ切れて
キッと彼を睨みつけて黙ってバタンとドアを閉めた。
い・・
意味分かんない!!!
なんで?
偶然としか言いようがないのだが
その一言で片付けたくない気持ちもあった。
あの『ナゾだらけ』の男と隣同士で生活するなんて!!
とにかくもう
出会った当時は彼のことを
『ヘンな人』以外の何者にも思えなかった。
今月末ににはここで行われる『シュタウト・ピアノコンクール』に出ることが決まっているので、ウイーンにやって来たばかりだったけれど、それと同時にその準備で毎日大変だった。
父も忙しい仕事の合間に自宅に呼んで、レッスンを続けてくれた。
小さい頃から父が大好きだった私は
離婚をしてしばらくは
父が恋しくて恋しくて
そっと夜中に母に内緒で国際電話をしたりしたこともあった。
父も母も大好きだったのに
どうして離れ離れにならなくてはならいなのかなんてことは、まだまだ幼すぎて私にはわからなかった。
ただ。
母の前では寂しい顔を見せることだけはしたくなかった。
こうして今。
父と共にピアノを続けることができたことが
私の歓びにもなっていた。
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