第8話 Eine Öffnung~はじまり(8)
父は母と一緒になる前
ピアニストの仕事をしていた時に日本を訪れて
ものすごくものすごく
気に入って。
しばらくの間日本に住んでいた。
そこで母と知り合って結婚をした。
だから日本語はペラペラだ。
「そーゆー関係って・・なに?」
父が彼に首をかしげながら言うと
「だからあ・・『パパ』なんて! 日本ではね、愛人の女性が相手のことをそう呼ぶんだって!」
大きな声でそんなことを言い出して
「はあ????」
もうびっくりしてこっちも大きな声になってしまった。
人にこんなこと訊かれたら、と思いドアを閉めたが
よく考えたら日本語がわかる人なんかいない。
呆れて言葉が出ないでいると、父はしばらくして意味がわかって大きな声で笑い出した。
「そうなのかあ。 いやいや、日本語は難しいね。 彼女はぼくの本当の娘だよ、」
「え~~~? 娘なの??」
彼はまた私と父を見比べた。
「娘といっても9年前に日本人の妻とは離婚してね。 ずっと別々に暮らしていたけど。」
「へー・・そうなんだあ。 エリサっていうの?」
「・・・・・」
黙って頷いた。
「フェルナンド先生の娘だから・・エリサ・フェルナンド?」
「私は母親の姓を名乗ってるんです! 『沢藤絵梨沙』ですっ!!!」
バカバカしくてついムキになって自己紹介をしてしまった。
「サワフジエリサかあ。 かわいい名前だね! 顔とぴったり!」
ほんっと声が大きい・・。
はあっとため息をついた。
「あのね! この前話したおれを推してくれた先生がフェルナンド先生だったんだって! 先生のおかげでおれ、ここに入れたんだよ。」
続いて彼から出た言葉にまた驚いた。
「え・・。」
父を見ると、そのとおりと言わんばかりに頷いている。
「彼の実技の試験を見てね。 これは何としてでも自分が手ほどきをしたいと思って。 他の先生もびっくりしていたけど他の試験がヒドかったからどうかってなかなかOKが貰えなかったんだよ。 でも。 何とかそこを押し切って。」
ドイツ語もまともにしゃべれないこの人を
実技以外の試験なんか
ひとつもできるわけがないのに
私は小さな驚きの中にいた。
父はピアニストであったが
その指導力も有名で
ウイーンの他パリやNYの音楽学校で講師の仕事は引っ張りだこだった。
そんな父が
『ひとめぼれ』した彼のピアノって。
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