第7話 Eine Öffnung~はじまり(7)

日本に戻ってからの私は明らかに暗い性格になり。




友達もできずに



仕事をしている母の帰りをひとり待ちながらピアノを弾き続けた。



ピアノさえあれば何もいらなかった。




中学生くらいになると



男の子から声を掛けられたり



つきあってほしいとか言われることも何度かあったけど



人付き合いが人一倍苦手な私には



苦痛以外の何物でもなかった。




そんな私だったから



女の子の親しい友達もできるわけもなく



本当にピアノだけに打ち込んで



コンクールに出ていい成績を残すことだけを考える毎日だった。



自分がいい成績を残せば、父も母も喜んでくれて。



それだけが唯一の生きがいだったから。







そのおかしな男とはそれからしばらく会うことはなかったけれど。



ピアノのレッスンの時間に決められた練習室に行こうとしたときに



隣の部屋から大きな笑い声が聞こえてきて思わず足を止めた。




すこしだけ開いたドアの隙間から




ここの音楽院のピアノ講師である父と



何とあの『大男』が談笑しているではないか。



え・・??



父がぼうっとつったっている私に気づいて



「絵梨沙、」



と笑顔で立ち上がった。




その男も自分を見たので、ハッとして思わず視線をそらした。




「もうレッスン終わったの?」



父がそう聞いてきたので



「ううん。 これから・・」



小さな声でボソボソと答えた。



すると




「あっれ~~? この間の!」



彼は思い出してしまったようで私に近づいてきた。




「・・・」



もう関わりたくないと思っていたのに、またこんなところで出会ってさらに目をそらした。



「彼と知り合いだったの?」



父に言われて



「ち、違うわ! パパの・・生徒だったの?」



動揺しつつ否定をしてチラっと彼を見た。




「うん。 そうだよ。 彼のピアノのレッスンの担当なんだ。」



その男はいきなり



「え! パパ??? パパって~~、」



私と父をジロジロと見比べたあと、



「え!! なに? ちょっと~~~、先生! 生徒とそーゆーのってよくないんじゃない??」



いきなり思わぬことを言ってきた。


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