第6話 Eine Öffnung~はじまり(6)
「おれさあ。 ぜーんぜんドイツ語わかんないんだよね。 今、何の授業だったの??」
その容姿とはうらはらに
とっても気の抜ける質問をされた。
「は・・??」
呆れたのか
びっくりしたのか
何だかわからなかった。
「先生、何の話してたの? ちょっとでいいから教えて!」
怖いと思っていた顔が
まるで小学生の男の子のようにくしゃっと崩れて
その笑顔とのギャップに少しだけドキンとした。
「ねえねえ。 名前。 なんてゆーの? おれ、北都真尋。 まだ日本から来たばっかでさあ。 もうみんな何言ってっかちんぷんかんぷんで。 昨日も買い物行った時にさあ、店員が何言ってっかわかんなくって。 めんどくせーから日本語で『金払えばそれでいいんだろー!』って。 すんげえ怪しい顔されちゃって!」
豪快に笑って。
「ピアノのレッスンは明日からなんだけど。 どーしよ。 先生と言葉が通じ合わないと困るよね。」
ピアノ・・?
彼を振り切ろうとして早歩きだった足を止めた。
「あなた・・ピアノをやっているの?」
こんな大きな厳つい人が。
とっても想像つかなかった。
「うん! そう!」
また満面の笑顔で子供みたいに頷いた。
「・・ドイツ語がわからなくてよく試験に通ったわね。」
あまりに呆れてそう言うと
「いちおう日本でドイツ語の先生について習ったんだけど。 来てみたら全然わかんないし、」
「どのくらい習ったの?」
「え・・1週間くらいでめんどくさくなってやめちゃった、」
1週間って
そんなもんでドイツ語を習得できるわけもない・・
あまりに型破りな彼に呆れ
「ほんと。 よく受かったよな~~~。 あのね、実技でおれのピアノ聴いて一生懸命推してくれた先生がいたんだって! その先生のおかげなんだけど。 来ちゃえば何とかなると思ったけどさ~~~。 やっぱ言葉がわかんないとよく考えたら授業も受けられないじゃん?」
そんなこと今さら考えてる方がおかしいわよ・・
この変な男に関わりたくなくて、また無視して歩き始めた。
「・・留学生向けにドイツ語の授業もあるわ。 それを受けたらどう?」
無視をすればよかったのに
そんなことを言ってしまって
「え! ほんと? 知らなかった。 そっかあ・・んじゃあ受けてみよっかな。」
せいぜい頑張れば・・
今度こそ彼との会話を断ち切りたくて、無言で行こうとした。
それなのに
「ねーねー。 これからまだ授業? 終わったらさあ、メシ行かない?」
あからさまにしつこく誘われた。
「・・けっこうです。」
彼に振り返りもせずそう答えた。
初対面なのに図々しい彼は
私の一番キライなタイプだった。
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